最終話:夢と現実の一歩ずつ

 イサムは、気がつくと元の自分の部屋に戻されていた。

 時刻を確認すると、午後十時から現実世界では五分しか経っていなかった。


(あれは……全部夢だったのか……?)


 ふとゲームアプリを起動したパソコンの画面を確認してみると、フォルダの中にクリアデータというものが追加されていた。


(いや、やっぱり夢じゃなくて、あの戦いは、そしてシアは本当に——)


 イサムの考えを遮るかのように、彼のスマートフォンが鳴り始めた。着信元の名前は坂東浩太ばんどうこうたと表示されている。


「もしもし、坂東か? どうした?」

「いやーゆうちゃん、誕生日おめでとう! ちょっとしたプレゼントとしてさ、ウチで作ったゲームを送っといたんだけど、もう遊んでもらえたかな?」

「ああ、やったよ。なんていうか、とても……そう、とても、良い夢だった」

「? 面白かったとかじゃなくて? いやまぁ、しょうがねぇか。だいぶコンパクトと言うか、必要最小限の敵とイベントしか作れなかったからなぁ」

「いや、十分だよ。オレには勿体ないくらいの素晴らしい作品だった。特に——」


 イサムは制作者の坂東を通して、そのに対して思いを告げた。


「特にヒロインのシアって子が最高に愛おしかったよ」


 それを聞いて、坂東は嬉しそうに答えた。


「そうか、そりゃよかった! ゆうちゃんの好きそうなキャラデザを芸術学科のダチに依頼して描いて、キャラ性も必死に考えてさー。いやいや、そう言って貰えるとイラスト頼んだ甲斐あったし、ゲーム完成させてよかったわ」


 そうして無邪気にはしゃぐ坂東だったが、夜中ということもあってか急に落ち着きを取り戻し、静かな口調で会話を切り上げ始めた。


「っと、夜おそくに電話してごめんな。無事届いてたか確認したかったのと、誕生日おめでとうって言いたかっただけだから、そろそろ通話きるね」

「ああ、本当にありがとうな、坂東」

「良いってことよ。それじゃまた、大学でな!」


 そうして通話が終わり、イサムの自室は静寂に包まれた。


(そっか、今までの出来事も、今日という一日も、後は寝るだけで終わるのか)


 そんな寂しさのような感情に包まれ、どこか眠る気になれなかったイサムは、ふと画面に表示されているクリアデータというファイルに興味がわいた。


(そういやこれ、触るとどうなるんだ?)


 イサムがクリアデータというファイルをダブルクリックした瞬間——


(うおお!? 眩しい! これは、まさか!?)


 またしても画面が強く光を放ち、イサムを包み始め——


「あ、勇者様! おかえりなさいっ! もしかして世界再生の手助けをしてくださるのですか?」

「って、普通に会いに来れるんかいーッ!」


 こうして現実では大学生、異世界では勇者として、一歩一歩わずかだが、しかしゼロではない、決してマイナスにならない、確実に何かを積み重ねるイサムの人生が幕を開けたのだった。


 めでたし、めでたし。

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勇(者)ちゃんクエスト~誕生日にもらった自作ゲームを起動したら、その世界に転移していたらしい~ 本宮はるふみ @haruhumimotomiya

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