ここを開けてくれ!

レッドハーブ

ここを開けてくれ!

夜十一時。俺は車を運転していた。


「ふああ…ねむ………ん?」


前方には一人の男が立っていた。両手でこっちを仰ぐようにしていた。

…よく見るとそれは知り合いだった。


「高橋じゃねーか!」


俺は車を止め、助手席のカギを解除した。


「…ハアハア…ハアハアア…」


高橋は俺の助手席に乗り、カギをかけ…


「だしてくれ!」

「どうしたんだよ? いったい?」

「はやくしろ!!モヤが…黒いモヤが…!!」

「お、おう。わかった、わかった」

「すまん、オレのアパートに寄ってくれ」

「あ、ああ…」


オレは言われたとおりにアパートに車を走らせた。


「今日はおまえの家に泊めてくれ…たのむ!!」

「別にいいけど…なにがあったんだよ?」

「わかんねぇんだ。いきなり黒いモヤが追いかけてきて…」


危ない薬でもやってるんじゃないのか?と喉まで出かかったが、どうにも茶化す雰囲気ではなさそうなので、やめておいた。


「…ここで待っててくれ。必要なもんとってくる」

「一緒に行かなくて大丈夫か?」

「ああ、すぐにすむから」


そういって高橋はアパートにすっ飛んでいった。


(なんだってんだ一体…?)


数分後、高橋は戻ってきた。


「お、もどってきたな。んじゃいくか」

「あ…ああ…………」


高橋はなにも応えない。

それは元気がない、というより覇気がないといった方がいいだろうか。

車を走らせること10分。オレのアパートに着いた。


「着いたぞ?酒とつまみとゲームがある。そんだけありゃ気が紛れるさ」

「そうだな…すまない」

「買い置きしててよかったぜ…あ、あとで酒代は請求するからな?」

「………」

「おいおいおい、そこは出世払いで!とか笑いとるとこだろ!?」

「あ、ああ…」


(どうしちまったんだ、コイツは…?普段は明るいヤツなのに…?)


部屋に案内し、軽く酒盛りしながらゲーム…。学生時代にもどったかのようだった。

ほんの2,3年前はこんなふうに夜通し遊んでいたものだったが…。

少しずつではあるが、高橋に明るい表情が戻っていった。


「そろそろ聞いていいか?なにがあっt」


ピンポーン…!


インターホンが鳴った。時刻は深夜一時。

こんな時間に来客か?オレが学生のとき深夜のピンポンダッシュが流行ったが…。

誰かのサプライズか?


「見てくるよ…」


高橋はゲームに夢中だ。昔から夢中になると聞こえなくなる性格だ。

やれやれと思いつつ、オレはドアスコープを覗き込んだ。


「………!た、た…か…は…し?」


玄関にいるのは………高橋だった。ドンドンとドアを叩いている。


「ハァハァ…おまえ、ふっざけんなよ!オレをおいていくなよ!開けろ!」

「………………は?」


だって高橋はオレとさっきまでゲームを…


「お~い、なにしてんだよ?ゲームの続きやろうぜ」

「あ、ああすまん。ちょっとトイレ!」

「わーった」


その場しのぎでトイレとは言ったが…二人の高橋。どっちが本物なんだ?

オレは疑問に思った。インターホンもドアの音も聞こえていない?


(そうだ!スマホだ…!)


オレはスマホで高橋に電話した。

その結果…


玄関の外から聞こえた。


(じゃあ…リビングでゲームをしているのは…?)


『おいおい、トイレ長くネ? まだカぁ?って、なんダ…でてたのカ?』


高橋はこっちへ来た。

どうしてこっちにくるんだ?  

えもいわれぬ恐怖がオレを襲った。

高橋はこっちへ来る。足音一つ立てずに…。

オレは廊下の電気をつけた。


「な、なぁ高橋。1つ聞いていいか?」

『なんだヨ?急に?』

「どうして…おまえには……………影がないんだ?」


正確には影はある。でもそれは影というより…黒いモヤだった。

なんでいままで気づかなかったんだろう。


『……………………………………なニ言っテるんダ?』


高橋はみるみるうちに赤黒く変色し、大きくなった。


『あたリまエだろ?だっテ、おれにハ…実体ガ…ないんダからヨォォオ!』


白い目、赤い口があらわれた。廊下一面がヤツの体で見えなくなった。



(マズい!マズい!マズい!逃げろ!逃げろ!逃げろ…!)


オレはあわてて玄関のドアカギを開けた。


「お!?やっと開け…ってコレだ!オレが見たヤツだぁぁあ!!」

「逃げろ!とにににく逃げろ!」


混乱してまともに呂律ろれつが回らなかった。


「「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!………ぁぁぁ」」


…そこから先は覚えていない。気がついたら、オレと高橋は後輩の家にいた。

そこまで軽く5キロはあるのだが、どうやっていったのかも覚えていない。

筋肉痛になってしまったということは走ったんだろうが…まったく覚えていない。

あまりの恐怖に頭が一時的にイカレてしまったんだと思う。


あのバケモノの正体はなんだったのかはわからない。

だれに行っても信じてもらえないし…。信じてくれるのは高橋だけ。

あのアパート?もちろんすぐに引っ越したさ。

いい歳した男二人が失禁したのはここだけの話だ。


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