第18話 暇だからゲームしない?
「楽しんでくれたようで、良かったよ」
「これでさてぃふぉちゃんねるは『マジテマオンライン』企画で安泰だね! ところで、感覚的にチュートリアルで動画切ったけど、大丈夫だったかな?」
「うん、バッチリだよ。流石は、登録者10万人の実況者。バランス感覚半端ない」
「へへへ。まーね、これがさてぃふぉの実力よ」
珍しく上機嫌な一ノ瀬さん。
よほど『マジテマオンライン』を気に入ってくれたみたいだ。
とにかく本人が楽しむことが一番だ。
配信者が楽しんでいると、視聴者も自然と楽しくなる。配信者が再生数稼ぎの義務でいやいや動画を撮っていると、案外それは視聴者にも伝わってしまう。
「ところで、二宮君はマジテマオンライン、プレイしないの?」
「とりあえず、今日のさてぃふぉと同じところまで進めてみるよ」
「いいね! 今度、対戦しようよ! 勿論、動画外で!」
「面白そう! 編集も頑張れそうだ!」
モチベーションを高めたまま、編集作業に入る。
あまり個性を出さず、基本に忠実にさてぃふぉちゃんねるらしい編集を心掛ける。
「編集しなくていいの楽すぎるよ」
「逆にこれを今まで一人でやっていたって思うと、ゾッとするよ」
「ありがとう。この苦しみを分かってくれるのは、二宮君だけだよ」
ベッドで寝そべる一ノ瀬さんと会話を交わしながら、編集作業を続ける。
「うーん」
「どうしたんだい、二宮君」
「不要なところはカットしたけど、それでも動画時間長くなりそうなんだよね」
「そうなんだ。ちなみにどれくらい?」
「二十分くらいだね」
「そっか。うちのチャンネルいつも十分前後だからね」
「どうしようか?」
「私は別に構わないけれど、それだと二宮君の負担になるよね。いいよ、バッサリ行っちゃおう」
「いやでも、さてぃふぉが一生懸命喋っているのをカットするのは、推しとして申し訳ない。だから頑張るよ、編集。いや、頑張らせてください。さてぃふぉちゃんねるの裏方として」
「二宮君……」
いつものさてぃふぉちゃんねるの倍ほどの時間があるため、かなり手間取ってしまったが、ようやく編集作業を終えた。
かなり時間がかかったようで、すっかり日も沈みかけていた。
「ふー、またギリギリ納品になってしまった」
動画サイトに本日上げる動画の予約投稿を完了させ、ようやく肩の荷が下りる
「ねえ、二宮君」
「なに、一ノ瀬さん」
「暇だからゲームしない?」
「ゲームやったばっかりじゃん」
「動画でやるゲームとプライベートでやるゲームは別物! 二宮君なら分かってくれるよね⁉」
「それはわかりみが深すぎる」
「でしょー? やっぱり私の気持ちを分かってくれるのは、二宮君しか居ないね」
「ありがとう。それで何やるの?」
「ちょっと待ってて」
一ノ瀬さんはクローゼットから箱のようなものを取り出した。
「これは?」
「ボドゲだよ。二宮君はボドゲ好き?」
「あんまりやらないけど、嫌いじゃないよ」
「私も興味あるんだけど、やる人いないから」
「急に悲しいこと言わないで」
「じゃあ、やってみようか」
「うん。ボードゲームなんて、なんだか童心に帰った気分だ」
一ノ瀬さんがボードゲームの箱を開封する。
ボードと色々な形のブロックが箱の中から出てくる。
「よっし、開封完了」
「ありがとう。なんだか開封動画みたい」
「はっ! 動画回すの忘れてた!」
「職業病がすぎるよ、一ノ瀬さん」
「二宮君はこれやったことある?」
「無いけど、これ系のやつは何となく分かるよ」
「交互にブロックをボードに置きあって、たくさん置けた人の勝ち。簡単でしょ?」
「それなら大丈夫そうだ」
最近、一ノ瀬さんと一緒にいすぎて感覚が麻痺しているけれど、推しと一緒にゲームをやるって冷静になって考えたらとんでもないイベントだよな。
そんなことを考えていると、ゲームがスタート。
「はい〜。これ神の一手じゃない? 神通り越して神社の一手!」
「やられた〜。さすがだね」
「アッツアッツ! 太陽神アポロニウスくらいアツい!」
「なんか新語録飛び出してるし!」
俺が置くのに苦労している中、一ノ瀬さんはガンガン置いていく。
一ノ瀬さんめっちゃゲーム上手いな。
ゲーム実況を生業にしているのだから当たり前といえば、当たり前なのだけれど。
さてぃふぉはどちらかというと面白さ重視で、とんでもプレイで時折視聴者からネタにされるタイプの実況者である。
だから動画界では上手いイメージなんてないが、こうして実際に相対するとレベルの違いを痛感してしまう。
「ダメだ。もう置けない」
「じゃあ私置いちゃうよ〜。えっ、全部置けそうじゃない?」
「ほんとに置けるじゃん」
「エッグタルト大盛り入りました〜」
何と一ノ瀬さんは全てのブロックをボードに置いてしまった。
そんなことより、俺はこの状況に感動を覚えている。
一ノ瀬さんはやはりゲームをするとさてぃふぉ化するようで、とどのつまりさてぃふぉと一緒にゲームをやっている感がより強いのだ。
こんなのファン冥利に尽きるだろ。
一生続け、この時間。
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