あなたが生きていく道を
灰色の空からわたぼこりみたいな雪が落ちてくる。
(今日のおそら、お母さんのおべべみたいやなぁ)
わたしは縁側で空を見ていた。お正月の宴会の騒ぎ声を背負って。
「お嬢ちゃーん、こっち
「寒いやろ、そないなトコにおったら」
知らない人がいっぱいいる。お正月の宴会には、遠いところにいる親戚だったり、お母さんのお友達だったり、あとはお母さんとお仕事のお話に来る人。知らない人(しかも、お酒をいっぱい飲んでいる!)と話すのはイヤだ。だからわたしは縁側にいるんだ。
「ふぇ、えーん」
「唄羽?」
わたしは立ち上がった。遠くから唄羽の声がする。
(たしか、奥の
廊下を走って仏間に着く。赤ちゃん用のカゴに唄羽がいる。
「ふえっ、ふえぇ」
「唄羽。よしよし……」
ようやく首の座ってきた妹を抱き上げる。
「唄羽……」
最近、ヨカンがしない。唄羽が生まれる前は、大人になったわたしのヨカンが見えたり妹とお祭りに行くヨカンが見えたりしたのに、それが見えなくなった。
だから、わたしは多分、大人にはなれない。そんなヨカンがする。
「元気だね、唄羽」
大人になれないのは怖くない。怖いのは、唄羽の隣にいてあげられない事。
「ごめんな。おねえちゃん、何にもしてあげられんくて……」
すやすや眠る唄羽のほっぺたを、そっとなでる。
わたしがいなくなった後も唄羽が元気に生きていけるように。それだけが、わたしの願い。
廊下を走る足音が聞こえる。
「音羽お嬢様!探しましたよ!」
「あ、運転手さん」
わたしは唄羽をカゴにおろし、運転手さんに頭を下げる。
「運転手さん、唄羽をよろしくね」
「……はあ?」
わたしがいなくなっても唄羽が元気でいられるように、今からみんなに頼んでおかなくちゃ!
ちいさなあなたへ 鴻 黑挐(おおとり くろな) @O-torikurona
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