第3話 ◇信用できない人とは暮らせない

3


私はいつも余程のことがない限り、夫の就寝に合わせて同時刻に寝具に入る

ようにしているのだが、流石に今夜はできそうになく、夫の寝息が聞こえて

からベッドの中、夫の隣へと滑り込んだ。


自分が女性からきたDMの件をこのまま黙っていれば、今まで通りの平穏な

日々が送れるだろう。それがいつまで続くかは分からないが。


だけど、すでにクロだと分かっていることを聞かずに通り過ぎることは

難しい。だって、信用できない相手と気持ちよく暮らしていけるはずが

ないからだ。


20代前半の若い頃からの夫を知っている。


その頃は知り合い程度だったのだから、何を知っているのか? と問われれば本質までは知っていたとは言えない。


印象としては、あんなカッコいい男性ひとと付き合える女子はついてるよね~という印象があった。


だけど、自分が彼の彼女になるとかそんなところまで考えたことはなかった。


だから彼の卒業のあとのことは、全然知らないでいたし。



            ********



就職して数年後、駅のプラットフォームでたまたま再会した時は驚いたの

なんのって。しかも滉星の方から連絡を交換し合おうって言ってくれて……。


でも再会した滉星は少し大人の男になり、学生時代よりもより一層かっこよくなっていて、連絡先を訊いてくれたのは社交辞令、社交辞令だからって自分の気持ちを落ち着かせて変な期待を持たないよう自分を宥めてた。


それが……連絡をもらい、始めて会った日に早々に交際を申し込まれ

うれしくて幸せだった日のことは、今だって昨日のことのように覚えている。


私が彼に問い詰めると、今ある幸せはシャボン玉のように消えて

なくなるのだ。それは確実に……。


今ある幸せを手放したくはない。

せめぎ合う自分の心。


沈黙を貫いて手放したくないと抗っても……

あるいは問い詰めても……


悲しいかなどちらに転んでも、今まで自分の手の中にあった美しいままの

幸せは二度と戻ってはこない


……のだという結論にしか辿り着かなかった。



           

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る