繁盛亭なかよし怪談夜話Ⅳ

稲富良次

第1話 発端「吹雪の僧院殺人事件」

プロローグ

このサイモリッツにも初雪が舞っている。

私はこれが吹雪く事を毎年の季節の変わり目として知っている。

昨晩訪れた12人の神の子達はよく眠れているのだろうか?

流石に疲労困憊で夜の山道を急ごうとする彼らを私は引き留めた。

訊けばケルンに向かう列車が転覆し谷に落ちた。

そして重傷者を介護する班と麓に連絡する班に分かれ

携帯の繫がる麓までの道すがらこの修道院を見つけてくれたらしい。

だが、戦後ならばともかく現代においてダイヤの乱れに

鉄道会社が迅速な手をうつと考えるのが普通だ。嘘をついているのか?

ここには電話はない。吹雪かなければ麓の村までは2時間だ。

今は列車に残った人々について祈ろう。

だがブラーザー・ボディはこないな・・・この四時の祈祷に遅れているのは

就任初日以来か?

この寒さに隠している酒を引っ掛けに霊安室に行っているのか?

仕方がない、大目にはみているが修行を疎かにしているようでは私のような

世捨て人と同じ有様になってしまう。

異端とみなされ、果てはこの朽ちていく修道院の管理人の道をたどる

事もないだろう。


なんだと!霊安室でブラーザー・ボディが血を流し倒れている?!

これは・・・熊にでも襲われたような三本の跡が修道衣を裂いている・・・

ああ神ょ・・・こうしてはいられない警察に連絡をしなければ!

寝ている彼らには心苦しいが今すぐ起きてもらわなければなるまい・・・

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