chapter18~『ゴールデンウィーク』って,映画会社の人が考えた和製英語なんだってさ~

 さて。


 母さんによる翼さんへの圧迫面接も,無事に終了した翌日。

 世間はGWの前半に突入している。


「圧迫面接なんて,失礼ね~」

 モノローグにツッコまないで!?


「・・・行ってきます」

「ホントに行くの~?」

「約束だから」

「先に栞ちゃんに,会ってみたかったなあ~?」

「それも含めて,話してくるから。母さんはずっと家にいるんでしょ?」

「いるけど~?」

「お昼は冷蔵庫に,作り置きのおかずがあるから,チンして食べて。夜は遅くなるようだったら連絡するから,その時は出前でも頼んで」

「お茶とかコーヒーは~?」

「自分で入れなさいっ!」


 よよよと泣き崩れる母さんを残して,僕は外に出た。


 今日は,巧の家に行く日だ。

 手土産は持った!

 でも,何が待ち受けているのか,不安でいっぱいだ・・・。




 ピンポーン。

 門の前のインターホンを押す。

 ここに来るのは3年ぶりだけど,相変わらずでかい家だな。


『はい,どちらさまでしょうか?』

 栞ちゃんの声だ。

 インターホンのカメラで見えてるだろうになあ。

「濱口です・・・」

『少々お待ちください』

 随分よそ行きの声だな?


 静かな音を立てて,門扉が開く。

 どういう仕組みなんだろ?


 僕は門を抜けて,玄関へ向かった。

 後ろでは,これまた自動で門扉が閉じる。

 正直,これが怖いんだよな。


 ピンポーン。

 今度は,玄関のインターホンを鳴らす。

『どうぞ,開いてます』


 ん?

 ちょっと違和感がよぎるが,玄関のドアを開けた。


「お帰りなさい,あ・な・たっ!ご飯にする?お風呂にする?それとも,わ・た・・・」

「初っ端から,トバしてるねっ!?」

 そこには,エプロンを着けた栞ちゃんがいた。


「いやですよ,衛兄さん。最後まで言わせて下さい!ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・」

「言わせないよっ!?」

「むう・・・」


 待ってほしい。

 白い半袖のブラウスに,臙脂のミニスカート。

 そこまではいい。

 でも,そのミニスカート,短すぎません!?


「履いてないように見えますか?」

「いやいやいや!?」

「さすがに,裸エプロンは許してもらえませんでした・・・」

 誰に!?


「来たそうそう賑やかだな・・・」

「巧っ!」

「兄さんは引っ込んでいて下さい!」

「俺の扱い・・・」

「まあ,玄関で立ち話もなんですからお上がり下さい,あ・な・た?」

 まだ,それ続いてるのっ!?


「お邪魔します・・・」

 二人に案内され,リビングに入る。


 パンパーン!

 はあっ!?


 紙テープが頭にかかる。

 クラッカーを鳴らされた!?


「いやあ,衛君!ようこそ我が家へ!」

「待っていたわ,衛さん!ようやく私達の息子になってくれるのね!?」

「・・・はあ?」


 巧と栞ちゃんのお父さん,竜崎獅童さんと,お母さんの姫子さんに手厚い歓迎を受けた。

「いや,息子になるとは・・・」

「ええっ?違うの!?ようやく栞をもらってくれると思ったのにぃ」

「ははは,母さん。気が早いよ。栞はまだ15歳だぞ?」

「あと3年じゃない!せめて婚約だけでも・・・」

「ははは,母さん。それはいい考えだねえ」


「まあ落ち着け,二人とも。栞は今,とてもヤバい状況なんだ」

「何!?何がヤバいんだ,巧!」

「衛は今,人生最大のモテ期に突入している。恋敵だけで4,5人はいるぞ?」

「なんですってぇ!栞,あなたは何をやってたの!?」

「いえ,母様。私は3年間,女に磨きをかけて,来年高等部に進学したら告白をしようかと・・・」

「モタモタしてるから,ヤバいことになってるでしょぅ!?」

「・・・申し訳ありません」


 ・・・・あの,僕を置き去りにして,親子喧嘩を始めないで下さい。


「すまんな衛。まあ座ってくれ」

「・・・うん。あ,これ。つまらないものだけど」

「おお,わざわざ手土産とは。ありがとうな」

 栞ちゃんとご両親の親子喧嘩を眺めつつ,僕と巧は寛いだ。


「・・・お前,やっぱ度胸座ってるよな?」

「そう?」

 巧の言うことは,よく分かんない。

「まあ,冷たい麦茶でも飲めや」

「ありがと」


 さて?


「・・・それでさ,巧」

「ん?なんだ?」

「・・・僕はまだ,ご両親に挨拶してないんだけど?」

「おお,そうだったな」


 忘れてたのかよっ!?


「父さん!母さん!」

「なんだ,巧?今はそれどころではないぞ!?」

「兄として,あなたからも何か言っておやりなさい!」

「いや,衛がまだ挨拶してないって・・・」


「・・・」

「・・・」


 あれ?

 僕の存在,忘れられてた!?


「・・・ああ,改めてようこそ我が家へ,衛君!」

「・・・ホホホ。ゆっくりしていって下さいね?」

「ご無沙汰しておりました。おじさん,おばさん」

「何を言ってるのかね!?お義父さんと呼んでくれていいんだぞ!?」

「私のことはお義母さんとっ!」


 うん,平常運転だ。


「・・・はあ」

「父さんも母さんも気が早い!今日は栞が,その権利を得るために勝負する日なんだぞ!?」

「「勝負っ!?」」

 相変わらず,仲の良い夫婦だなあ・・・。


「栞!今日のおもてなしメニューは!?」

「はい,兄さん!まずは新妻モードで,お昼ご飯をご馳走します!その後は私の部屋で,会えなかった3年分のアルバムを見ながらイチャコラします!そしてそのまま,手を繋ぎ,見つめ合って,私は押し倒され,グヘヘヘ・・・」


「よく言った,栞!」

「さすが私達の娘よ!」


「いや,止めるところでしょっ!?」

 一家揃ってなんたることか。

 あと栞ちゃん,ヨダレを拭いてね?


「まあ,本当にゆっくりしていってくれ。私達は,これから仕事に戻らないといけないのでな」

「え?GWなのにですか?」

「ええ,休日でも働いている社員もいっぱいいるからねぇ?」

「はあ・・・」


 竜崎夫妻は,竜崎製薬という大会社の社長と専務だ。

 数年前に,企業グループ内で大改革があって,竜崎製薬の株価が急上昇した。

 そのため,二人とも未だに忙しい毎日を送っていると,巧に聞いたっけ。


「まあ,なんなら泊まっていってもいいぞ?」

「なんなら巧は追い出していいから」

「なんで!?」

 巧・・・。

「栞,しっかりやるんだぞ?」

「あ,衛君。避妊はしなくてもいいからね?」

「いや,そんなコトしませんよっ!?」

「しないのか・・・」

「早く孫の顔が見たいわね・・・」

「娘さんのコト,もう少し大事にいて下さいっ!?」


 恐ろしい捨て台詞を残して,竜崎夫妻は出かけて行った。

 ・・・栞ちゃんは顔を真っ赤にして,モジモジしていた。


「俺,出かけた方がいい?」

「頼むからいてっ!?」




「・・・如何でしょうか?」

「うん,おいしいよ」

「良かった・・・!」


 栞ちゃんが用意してくれた昼食は,純和食だった。

 ご飯,アサリの味噌汁,サワラの西京味噌付け焼き,ほうれん草のおひたし,そして卵焼き。


「なんか,朝ご飯のメニューみたいで,申し訳ありません」

「ううん。僕は朝はパン派だから,こういうの新鮮だよ?」

「そうですか。・・・衛兄さんは朝はパン派,と」

「メモらなくていいよ!?」

「俺,朝も似たようなメニューだったんだが・・・」

「兄さんはいらないなら,食べないで結構です」

「そんなあ・・・」


「それにしても,お料理上手だね。中学生とは思えないくらいだよ」

「・・・衛兄さんは,中学生の頃には料理なさってたんですよね?」

「まあ,ね。小学生の頃は一時期,家政婦さんを雇ってたこともあったけど,うちの母さんは仕事柄不規則な生活だったし・・・」

 お金も勿体なかったからね。

「衛兄さんは,どうやってお料理を勉強されたんですか?」

「うん?まあ料理の本とか,ネットで調べてかな?最初は失敗ばかりだったよ・・・」

「最初は?」

「うん。うちの母さん,売れはじめたのは離婚してからだったから,初めて料理をしたのは小3の頃だったっけなあ・・・」

「・・・すみません」

「ん?いいよ。別に気にしてないし」

「でも・・・」


 小さい頃のことだった。

 と,割り切れることは出来ないけど。


「初めて作ったのはカレーだったなあ。箱に書いてある通り作ったんだけど,子どもの僕には辛すぎてね。母さんには好評だったけど」

「そうですか・・・」

「衛のカレーは美味いもんな!」

「ああ,校外学習で作ったっけ?」

「おう,同じ班の女子達は出る幕なかったもんな」

「私も食べてみたいです」

「・・・そのうちね?」


 なんて曖昧な,無責任な言葉だろう。




 僕は少し,自分が嫌いになりかけていた。

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