棚森重雄(3)
妻の棚森
「どうぞ」
棚森敦子は警官三人を招き入れ、四つのハーブティーを淹れた。親しいという山田は彼女の隣に座った。
「すみません。ご足労かけまして」
刑事二人は頭を下げた。
「いえ。お買い物に出ていただけですから。それよりも、棚森の容態のほうは……?」
「はあ。単刀直入に申しまして、あまり芳しくはありません。アナフィラキシーショックの中でも重度のほうらしく、覚悟をなされよというのが医師の言葉でした」
「そうですか……」
彼女は顔をうつむけた。瞳に涙が薄く浮かんでいる。それが演技だとしたら相当な女優だ。山田は彼女の背中を優しくさすった。
角谷警部と太川はアイコンタクトを取った。こういうことは変にはぐらかさないほうがいい。
太川が口を開け、警察手帳のメモを取り出した。
「ところで、奥様。今回の棚森重雄さんの症状というのが、食物依存性運動誘発アナフィラキシーといいましてね。アレルギー症状が出るものを摂取して二時間以内に運動をすると起こるものなんです。倒れたのが十時頃だから、朝の八時頃。もちろん時間は前後しますが、彼が今日何を食べたかご存知ですか」
「ええ。私が用意しましたから。今日は私のほうも朝から所用があって出ておりましたので、作り置きしたものを冷蔵庫に入れておきました」
彼女は凛と言った。おそらく太川の言葉の含意は理解しているだろうが、逃げも隠れもしなかった。
彼女は冷蔵庫から、白いプレートを取り出した。適当にラップがかかっていて、コロッケがひとつ、置いてあった。
「先ほどお茶をお出ししたときに確認したのですが、本来コロッケは二つ用意しておりました。ひとつ食べて、出かけたのでしょう。彼は時間にルーズですから、間に合わなかったのだと思います」
「なるほど。これを回収してもよろしいですか」
「はい」
太川は皿ごと受け取り、鑑識課に連絡する。さすがに彼女に直接問いただすことはできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます