Le Médiateur du Désir
ナツメ
当て馬
殴られた。
「
初めて殴られたけど、あまり驚いてはいなかった。なんとなくこうなるような気がしていた。
というか、こうなるかどうか、確認したくてやったのかもしれない。
もう一発殴られた拍子に尻もちをついた。ラグの上だからそんなに痛くなかった。
ブラウスのボタンが飛んでいた。
これには驚いた。他の男と寝てきたときには、私に触れるのも嫌そうだったのに。
孝宏の手が私の服を剥ぎ取っていくのを眺めている。するつもりなんだろうか、こんな状態で、できるのかな。普段から淡白で月に二回あれば良い方なのに。
ちらりと見ると、孝宏のそこはズボン越しでもわかる程度に膨張していた。
ああ、やっぱりそうなんだ、と思う。
悠斗とどんなことをした、と孝宏は聞いてきた。
その言い方は部下のミスを追求する上司みたいで、切羽詰まって、怒りに満ちていた。
羞恥プレイならまだいいけど、そういうトーンでセックスのことを問い詰められるのはなんだかひどく滑稽だ。心が冷え冷えとするのを感じながら、癇癪持ちの上司の相手をする部下みたいに、淡々と答えた。
孝宏は悠斗が触れた部分に触れ、悠斗が舐めた部分を舐めた。それはそれは念入りに、まるで、私の肌の上に残った悠斗のDNAを、ひとかけらも残さず舐め取ろうとするように。
だから私は言ってみた。「生でやった」って。
その瞬間の孝宏の顔といったら! 人間の顔って、あんな一瞬で赤くなるんだ。
挿入するとき、孝宏は真っ赤な顔のまま憎々しげに私を睨みつけていた。私は、生のちんぽってこんなもんなのか、とぼんやり思っていた。
就職で東京に出て、幼馴染の悠斗と再会した。幼稚園から中学まで一緒だったけどそこからのことは互いに知らなかった。私はいわゆる「誰とでも寝る女」になっていたけど、悠斗に対してはそういう気持ちにならなかった。昔からちょっと女の子っぽいところのあるような、柔らかい雰囲気の子だったから、同性の友達とか、かよわい弟みたいな感じに思っていた。
悠斗から「親友を紹介したい」と言われて会ったのが孝宏だった。二人は大学時代に出会って、意気投合したのだという。三人で飲んで、連絡先を交換して、孝宏の方からアプローチされた。特に断る理由もなかった。
孝宏は私と悠斗の昔のことをよく聞きたがった。まあ、出会いが悠斗を通じてなのだから不思議ではないけれど、そのあたりからかすかな違和感はあったように思う。
孝宏は淡白だったから、私は早々に浮気をした。最初にバレたとき、孝宏はゴミを見る目で私を見た。まあそうだろうなと思ったし、私はこういう女だから無理なら別れようと言った。孝宏は縋ってきた。
何が決定打ということはないけど、私は勘づいていた。
孝宏は、私のことを見ていない。
最初は、元カノに似てるとか、そういうことかと思っていたけど、多分違う。
そう思ってから初めて悠斗と三人で飲んだとき、私ははたと気がついた。
孝宏の視線も、言葉の端々も、意識の向け方さえも、こんなにわかりやすく主張していた。
こいつは悠斗が好きなんだ。私を通して悠斗を見て、悠斗が
だから私は、悠斗を誘って寝た。
孝宏が必死で腰を振っている。私を睨んでいた目はいつの間にか閉じられ、性器の感覚に集中しているようだった。
「……悠斗のちんぽを想像してんの?」
「は」
動きが止まった。
「悠斗のちんぽが擦ったまんこに、自分のちんぽ擦り付けて気持ちよくなってんのって」
中のものが急速に硬度を失うのを感じながら、悠斗とのセックスを思い出した。
私は悠斗にもカマをかけていた。「幼馴染とセックスしちゃったね」と言ったときには困ったように笑うだけだったけど、「親友のちんぽが入ったまんこに入れて嬉しい?」と聞いたら、覿面に性器を膨張させていた。
つまり、私は、とんだ当て馬だったのだ。
「ほんとは生でやってないから、どんなに擦っても悠斗の我慢汁すらお前のちんぽにはつかないよ。残念だったね」
先ほどとは打って変わって顔面蒼白になった孝宏を蹴り飛ばして、私は身を起こした。
ゴン、と鈍い音がしたが知らない。馬に蹴られてなんとやらだ。ああ、バカバカしい。
シャワーに向かいながら、私は孝宏のことが好きだったのだろうかと考えた。
全然、わからなかった。
Le Médiateur du Désir ナツメ @frogfrogfrosch
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