悲劇
「この辺りで道が途絶えてまさーね」
島の道案内の男が止まる。
ここは見渡す限りの草原地帯。古代遺跡などどこにもない。
「クロウ、疲れたー」
ズズがへたり込む。
「俺のカンではもうすぐそこなんだが……まあいいか、ちょっと休憩にしよう」
草の上でみなが車座に座る。
「そういえばよう、ズズの夢もロードの夢も聞いた。クロウだけがどんな夢を持っているか聞いてねーぜ。教えてくれよ」
スピードの問いにクロウが考え込んでいる。
「そうか、もう話すとするか」
クロウがリュックからあの小瓶を取り出す。
「この中には妹、マリアの小指が入っている」
「妹の?」
「ああ、あれはちょうど一年前の事だ。俺たちは母と一緒に故郷『カランディア』で平和に暮らしていた……」
ドカッ、ドカッ
「恐ろしいよ、ゲンジョウ。なんとかならないのかい?」
クロウの小さな家が何十人ものギャング「ピースフル」に取り囲まれていた。名前とは裏腹の極悪集団で知られているギャングだ。
「早くネーチャンよ、出て来いよ!」
こんな貧乏な家から金を強奪する気でないことは明らかだ。狙いは一つ、妹マリアの体目当てだ。
マリアは部屋の隅で震えている。
クロウとは8才違いのマリア。まだ17才の小娘である。マリアの美しさをどこからか聞きつけたのだろう。女に飢えたギャング集団が容赦なく家中の壁を蹴っている。
飛び出して行くと自分だけは助かるかもしれないが母とマリアはむりだろう。
万事休す。クロウは死を覚悟し、長い薪を持ってドアを開けた。
「おっ。これが兄貴か。いらねー。殺せ」
大勢に取り囲まれ、リンチが始まった。その間に家に火をつけられた。
燃え上がる家から母とマリアが引きずり出される。
母が首を絞められている。間もなく息絶えたのかどさりと地面に倒れた。
「かーちゃん!」
マリアは縄で縛られ男に担がれて行く。
「マリアー!」
やがてクロウは気絶し、男達は帰っていった。
三日後、自警団が来てマリアと見られる死体が見つかったというではないか。
走ってそこに向かうクロウ。見えてきたのは田舎の道端。群がる人を押しのけ前に出ると肉塊に成り果てたまごうことなきマリアが捨てられていた。
首も手も足も切断された裸体で横たわるマリア。指まで全て切り裂かれ、とてつもない拷問と陵辱を受けたのは明らかだった。
声も涙も出なかったクロウ。
そのまま遺体は埋められ葬儀が執り行われた。
クロウの目から涙が。
それから一週間泣きはらした。泣いても泣いても悲しみは消えない。
「俺なら復讐できる」
この時初めてカンが働いた。
「…………なんて事だ………」
スピードが頭を抱える。ズズが泣き出す。
「それで警察を復活させる……でかい夢だ」
「違う。警察復活はある尊いお方に与えられた使命だ。俺の夢はなぁ……ま、いいさじきに分かる……ん?分かる……方向が分かるぞ、下だ!」
「下?草原だぞ」
「ズズ、大きな玉を下に放ってくれ!」
「分かったわ」
ズズが構える。黒い玉を出すと下をけずる。
「何にもないわよ」
クロウが真剣になってズズを励ます。
「どんどん深く掘るんだ!」
ズズが特大の黒い玉を出す。それを土にぶち込む。
なにやらピンクの平坦な床のようなものが見えた。
「これだ!これが古代遺跡だ!やった、ズズお手柄だ!」
「うっほーこれで俺の手も元通りだ!」
みなで狂喜乱舞する。
「ズズ、そのピンクのやつに穴をあけてくれ」
「お安い御用よ」
ズズが玉をぶつけると大きな穴が開いた。
「よし!乗り込むそ」
ついに古代遺跡ガンダーラにたどりついたクロウたち。
中に待ち受けるものとは。
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