軍団

 ドンドンッ


 部屋のドアを叩く音。朝からなにか表が騒がしい。クロウが窓から外を見ると、あふれんばかりの軍服を着た男達。


「開けろークロウ一味!」


 なぜか悪者のような呼びかけに不安が募る一同。


「ビビるなよ。警察はこの国には存在しない。軍かと思ったんだが……コイツらの顔をよ〜く見てみろ。みな同じ顔だ。なぜこんな事になったのかは……」


 みなクロウの次の言葉を、ゴクリとノドを鳴らしながら待つ。


「分からない。どうしてそんな事になったのか、見当もつかない」


 みながドッとコケる。


 ドアが大きな音をさせ、ガンガン叩かれ始めた。


「やべーやつだぜ、クロウ。打って出るか?」


 スピードの言葉に慎重だったクロウが腹を決める。


「相手は斧でドアをぶっ壊すつもりのようだ。こちらから行くしかない!」


「OK!腕がなるぜー!」


 ドアが破られた。入ってくる軍団。


 ガン、ガン、ガン!


 スピードの拳が唸りを上げ、一人を一撃で倒していく。しかしさらに敵の数が増え、次第にドア付近に人がたまっていく。


 ターゲットはズズだったようだ。ズズに軍団が群がる。


「ズズ、殺すな!」


「分かったわ!努力はしてみる!」


 ズズは黒くなった手で男達の顎を払っていく。口が無くなり流血し、もんどり返る軍団の男達。


 が、それにも限界がある。


 ズズは両手を掴まれ後ろ手に手錠をかけられどこかに連れていかれた。


「ズズー!」


 スピードの悲痛な叫び。しかしこの人間の多さではにっちもさっちもいかない。


 クロウが、ロードが。そして一番粘っていたスピードも手錠をかけられた。

 

 

 

「くっくっく、全員捕まえたか、センリ」


「はい。デウス様の思惑通りに」


「俺の生み出した軍団は無敵だ。強いチームでも必ず引っ捕らえる技術がある。人間は俺が生み出したやつはかり。死んでも痛くも痒くもない。俺に命を捧げる奴だけ。俺が全てを統率できる。まさに俺の軍団」


 センリが茶をいれている。


「あの女だけ別で捕らえたわけは?」


「分かっていよう。わーっはっはっはっ!」


「ほっほっ、好きですなーデウス様も」


 茶を飲みながらにやりとする。


「男には女が必要。それだけだ。神が与えし欲望と快楽。その通りに行動してなんの咎がある?ふふふ」


 デウスは自己解釈したブッダの教えを引用し、センリの部屋から出ていった。


「…………はっ!……」


 目覚めると牢に入っていたクロウ達。しかしズズがいない。


「あー、なんか体が重いぜ」


 次に起きてきたスピードが頭をぼりぼりかきながら首を振る。


「なんか予知夢でも見たか、クロウ」


「なんにも。多分薬を射たれたんだ。俺達」


「ロードは起きねーよな。こいつ寝たらとことん眠り続けるやつだから」


 クロウがスピードに聞く。


「お前とズズ、デキてんだろ」


「なんでそんな話を。まだキスしただけだよ。なぁズズ……あれっ?」


「そう、いないんだよ。ズズだけ。ヤバい事になってなけりゃーいいが」


 スピードが怒りを爆発させる。


「くそっ、デウスの奴!ズズをおもちゃにしてたら三回殺す!」


「俺が見て来よう」


 やっと起き上がってきたロード。


「どうやって」


 ドロンとハエに変化するロード。プイ〜んとどこかに消えてしまった。


「腰が砕けるような異能を使うな」


 そこへ男が5人やってきた。


「あれ?3人だったはずだが」


「一人は逃げたよ。残念でした」


「こしゃくな!」


 男の一人がクロウを蹴り飛ばす。


 クロウは手錠をかけられ、牢から出された。


「コイツ手がないぜ」


「マジか。じゃあ、足にでもはめてこい」


 長い廊下を下って行く。やがて一つのドアが開いた。


 仰天するクロウ。同じ顔の男が群がってそこにいた。


 放送が鳴り響く。


「これからゲームを行う。用意はいいか」


「何をしようというんだ?」


「二人とも部屋の中に入れ」


 いうままに動くクロウとスピード。


 その時クロウが、あの小瓶を胸から出した。


「前にこう言ったな『お前は死ぬけれど俺は死なん』ってな。これをお前に託す。きれいな花畑に埋めてくれ」


 あらためて小瓶をよく見るスピード。そして上半身をのけぞらせる。


「こ、これ……は……」


 クロウは首を振り、死を覚悟した。


「さあ、こいつら全員倒して次の部屋にこれるかな」


 この男がデウスだ、という確信を得た。


「奢れる者は久しからず、盛者必衰の理。お前は哀れな最期を遂げるだろう」


「お前の自慢のカンか」


「違う。俺は物事の因果について語っているだけだ」


「ふん。華厳の教えか。しかし仏道にはこういう教えもある。『天上天下唯我独尊』とな。我が道は我しか分からず人は己の意のままに生きて、死ぬ時悔いなきように生きろとな。どちらが正しい仏道か勝負だ」


 クロウの表情が硬くなる。チラリとスピードを見ると、怒りで爆発寸前の様子。


 クロウがカンを働かせる。


「安心しろ、スピード。ズズはまだ何もされてはいない」


「そうか。分かった」


 スピードが冷静さを取り戻した。


「ゲームを始めろ!」


 クロウはあらゆるところを殴られ蹴られ、両手で顔面を防御し耐える。スピードがバンバン敵を吹っ飛ばし一騎当千の力を見せる。敵は折り重なって倒れ、足の踏み場がない。


 これだけの力をスピードが見せるのもズズを救いたいと思っているからこそだ。クロウはそこに「縁」の不思議を見る。


 やがて人の数がかなり減ったところでロードがフラフラと登場だ。


「ふんっ!」


 手錠を破壊し、臨戦態勢になる。


(すげー力。素でケンカになってもスピードといい勝負じゃね?)


「なわしろ」


 両手からなわしろを出し、まだ立っている敵の喉を貫き死に誘う。


 やがてその部屋の敵百人全てが死ぬか重傷でたおされた。


「ふーん。前のドアを開けろ」


 デウスの指示通りに次の部屋へ向かう。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る