我はなしとげたー!

 クロウがサソリをスピードの方に追いやった。


 ぐばん!


 背骨が折れるほとの大きな音がした。


「くそ!これでもくらえ!」


 サソリが再度毒針をスピードに飛ばす。


 するとなんと、毒針がパシパシパシっと弾かれたではないか。


 スピードがかつてないほど複雑な顔をしている。


「大丈夫か?」


「あぁ、全く問題ない。……いや大問題だ。手が出てすべての毒針を弾いたんだ。俺が思った通りに。今顔を触ってるんだが、間違いなく俺の手だ。しかし見えない。頭が混乱している……」


 ズズがしたり顔で言う。


「そういうのを『思念体』っていうのよ。あんたも異能者になったみたいね」


 そういうズズの目の前にサソリが突如現れた。黒い玉を作る余裕がない。


「キャー!」


 ぐわしゃー!


「???」


 サソリが右横に吹っ飛んだ。


 クロウがたまらずに聞く。


「今のもスピードか?」


「あ、あぁ、そうみたいだ」


 戸惑うスピード。サソリとの距離は5メートルもある。この「手」には距離感などないようだ。誰がどんなに離れていてやもこの「手」ならば、仕留める事ができるようなのだ。


 スピードがサソリの頭に立つ。


「思い残したことはあるか」


「ない。俺は生まれた時からのヤクザだ。やりたい事はやり尽くした」


 スピードが笑顔で答える。


「うらやましい。俺はものごごろ着いたときから空手をやらされていた。なぜかお前とは気が合いそうだ。地獄で待っていてくれ。自由に生きる面白さを話してくれ」


 スピードは左手を耳にもって行き、それを前にだす。手の先には涙を流すサソリの顔が。


 ぐしゃあ!


 スイカを割るようにサソリの顔が砕けちった。


 するとどうたろう、スピードの心臓が大きく鼓動する。サソリの異能がスピードに流れこむ。それは熱く熱く、死者の怨念のようにずるずるとスピードの体がリカバリされていく。


「我はなしとげたー!」


 つい衝撃的に叫んでしまう。 


「なんだその叫びは。それより本当に顔がひでーな。で、何を成し遂げたんだ?」


「分からない。言葉では説明つかない境地とでもいおうか。いろんなこいつの経験が流れこんでくるとでも……」


「分かった。次の宿場町へ行こう)


「OKよ」 


「人の話をきけよ。ぶつぶつ…………」  


 そこへなんとズズかスピードに近寄り、ジャンプしながらキスしたではないか!


「うわっ!」


「あなたが命をかけて毒針を自分の手に突き刺してくれなかったらあたしは死んでいたわ。ありがとう。あの極限状態だから異能が発現したのよ。とにかくお礼のキスをさせて」


 スピードが少しかがんで熱いキス。


(昨日からの俺へのアプローチはなんだったんだ)


 少しふてくされて前へ歩を進めるクロウ。


「次の宿場町は『オワード』昨日の宿場町より若干小さいかな」


 スピードとズズが腕をからませながら、何かささやきながらついてきている。


「ひとの話をきけー。ごらぁ!」

 

 

 

 








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