超高度文明
無鉄砲なスピードがズザーと下へ滑り降りる。そして穴の中を覗き見ながら言う。
「うわ、めっちゃ高けー所にいるぜ。でも暗闇じゃない、ちゃんと自然光が入ってる。なぜかは分からねーが」
クロウが尋ねる。
「降りていけそうか」
「無理だ。何十メートルもあるぜ。飛び降りたら死ぬ」
クロウはロードに聞く。
「なわしろで人を降ろすのは可能か?」
「わけもない」
「サンキュー、ロード」
「今からロードがそこに行く。まずお前が下に降りてみるんだ」
「分かった。体のいい実験台だな」
ロードが穴まで降りていく。
「たのむぜ、ロード」
ロードがなわしろを出す。「つかまれ」という言葉に従い、穴から下へ降りて行くスピード。
続いてクロウが、次にズズが、最後にロードがシュルシュル降りていく。
地面についたらみな驚いた。軽いのである体が。
「か〜るいな。体がむちゃくちゃ軽いぜ。もしかして誰かの異能か?」
スピードの感想に、
「このガンダーラという古代遺跡にはある説があってだな。はるか昔にここβ星に移住した人の超高度文明の名残りがわんさかあるっていうものだ」
「なんでそんな大事な事いわなかったんだよ」
「聞かれてねーし」
ズズが一匹の子犬を見つける。
「あ、かわいい!」
その時花壇の奥から人間が。
「これこれ、そっちに行っちゃいかん……ほっ、人がいる!これはこれはおいでませ」
頭を下げる謎の老人。
「どうも。ここの住民ですか?」
「ん、んー。住民といえば住民かな。わしゃ考古学者のションタオ・リャンという者じゃ。この遺跡を探り当ててから、もうかれこれ1年がたつかのう。伝承にはあっても実際には存在しないと言われてきたガンダーラを見つけたのじゃ。そりゃ1年調べたおしても興味は尽きぬわ。とにかくよくここを探り当てたのう。どうやってここが分かったのじゃ?」
クロウが話し始める。
「僕はカンがいいという異能者です。この辺りを調べていると草原の下が遺跡だと分かりました。先生はどうやってここを見つけたのですか?」
「わしの異能は『運がいい』とでもいうかのう。やる事なす事全て上手くいくのじゃ。わしも草原を彷徨っていると端っこで転落したのじゃ。すると海岸線にこの遺跡の出入り口があったのじゃ。すこぶる運がいい」
「なにがあるのですか、この遺跡に」
先生は考え込んでいる。
「なんでもある」
「なんでも?」
「あー、うーん。そうじゃのう。大げさに言えば超高度文明の技術がなんでもあるといったところか。それに関する文献もそろうとるし、1年じゃ終わらんの。3年はかかるじゃろうて。今は究極の兵器、量子爆弾の事を調べておって、それの科学的なアプローチである相対性理論というのを勉強中じゃ。これがとにかく難し過ぎてワケワカランのじゃ。わっはっは」
くだけた人物のようだ。笑みが浮かぶクロウ。
「体が軽いのは何なんですか」
「重力制御装置のせいじゃ。超高度文明にはグラビトンという素粒子を自在に操る科学力があってじゃな、老人のいこいのこの公園は半分の重力しかかからんのじゃよ。年をとるとだいたいみな腰が悪いでのう。ところでお前さんらはどこから来たのじゃ」
「そうですね。自己紹介がまだでした。こいつはスピード。東の国マーダスの出身。こいつはズズ。ベルフェの出身。俺とこのロードは最も東のカランディスの出身です」
「わしもカランディスじゃ」
ロードが質問する。
「聞いた話しによると死者を生き返えらせる事もできるとか。本当ですか」
「ああ、蘇生装置のことじゃな。まずはそっちに向かうかの」
先生が歩き出した。あとを追うクロウたち。
公園を出ると一気に体が重くなる。
やがて見えてきた蜂の巣のような居住区。
「これは何ですか」
「この遺跡はの、本来人間運搬船なのじゃ。なんでも一万人近くが遠い母星、地球から移住してきたらしいんじゃよ。この一つ一つが寝床になっておっての、わしもこの一つで寝起きしとるわい。わっはっは」
カラカラとよく話し、よく笑う。明るい先生だ。
「あれはなんですか」
クロウがところどころに転がる木馬のような物を指さす。先生はニヤリと笑う。
「あれはの、スカイビーグルという乗り物じゃ。乗ってみるか?」
先生が倒れている1台を起こし、またがる。次の瞬間フワリと浮き上がったではないか!
「みんなもやってみぃ」
おのおのビーグルにまたがる。しかしびくともしない。
「まず、出発しろと念じるのじゃ。それだけで宙に浮く」
四人なんとか浮き上がった。
「あとは行きたい方角を念じるたけで進む。まずわしについてまいれ」
先生が先に進む。みなもふらふら前に進む。
「ここからがラボの区域。蘇生装置はそこにある」
ビーグルを降り、なにか分からない未来的な建物に入ると小さなプールのようなものがあった。
「だれからやるのじゃ?」
「では俺から」
スピードが名乗りを上げた。
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