あやつり人形

 ゴォー


 風が強い。時々砂塵が舞う。みな目を細めて歩いている。


「この風、異能っぽいな」


「はあ?風が?」


 スピードが信じられないという顔をする。


「ここには風が吹いている。しかし遠くの木は風で揺れてない」


「あ、ほんとだ」


 スピードのいつものすっとんきょうな顔だ。闘っている時とギャップがありすぎるとクロウは思っている。


「それより」


「なんだ?」


「異能は単体でも成長するようなんだ。例えば俺の『カン』最初はただのカンだったのが最近は予知夢まで見るようになった。今日の夢はまさに砂ぼこりの中旅をする四人の姿だった。そして敵とも遭遇する、嫌な夢だった」


 後ろを歩いているロードがバタリと倒れる。


「どうした。ロード!」


「眠気が凄い。もしかしてこのまま眠れるかも」


 ロードが眠ってしまった。クロウ達は待ってやる事にした。何年ぶりの睡眠だ。思い切り寝かせてあげよう。みなのいたわりだ。


「ふわー。そういうことなら俺も寝る。おやすみー」


 スピードに続いてズズも。


「あたしも寝るわ。クロウ、番をおねがいね」


(適当に生きてんなこいつら)


 少し腹がたったが、いつも極限の旅をしているのだ。今日は体も心も休ませてやろう。クロウが寝ずの番を引き受けた。


 

「ふっふふ、三人寝たか。催眠術が効いたみたいだ。しかし一人起きてんな。なんだ、あいつは」


 ゴオウが草葉の影からもっと強い催眠術を試みるも、クロウにはかからない。眠気よりもみなを守りきるという責任感が勝っている。


 クロウの目の前に現れるゴオウ。


「最弱のやつが残ったな。ほかの奴は後まわしにしてお前から片付けてやろう」


 目をとじたままスピードがゆらりと起き上がる。


「何をしようというんだ」


 スピードがクロウに迫る。そして猛攻を始めた。


 ボスガンガンガン!


 もの凄いスピードの拳の連打。クロウはめった打ちされどたりと倒れる。


「ぐ、ぐう」


(カンでは逃避すべきポイントがわかるけど、体がついていけない……)


「あっはははは。どうだ味方にやられる気分は。次はこいつだ。死ねい!」


 ズズが起き上がる。


(や、ヤバいのが来るぞ。集中だ)


 ズズが両手の人差し指をクロウに向け、黒い玉を速射してくる。


 これはひらひらよけるクロウ。

(意外にもスピードはそれほどないのか。ほっ)


「ええい。今度こそ!」


 ロードが起き上がる。そしていきなり地面に潜りこむ。


(ロードか……一番攻撃が読めない……)


 クロウは地面からなわしろの槍がでてくるとふんだ。地面を見つめるクロウ。


 するとどうだろう、ロードのなわしろが後ろから現れクロウの杖に絡みついたではないか。


(なんだと!)


 杖なんかどうだっていい。天辺の小瓶をゆわえている紐をとき、その場を飛び跳ねた。


「スピード、お前がトドメをさせ!」


「目を覚ませスピード!俺を殴ったら飯を食わせないぞ!」


 構えが固まるスピード。夢の中で葛藤しているのか。


「くそっ。やっぱりそこの妖怪だ!」


 ロードがなわしろを飛ばしてクロウの首に絡まる。


「ロード! 一緒にこれから人生を共にする仲間じゃないか!」


 その言葉に眠りながらも逡巡し、動きを止めるロード。


「河童もだめか。じゃあまた最強の女だ!」


「あっ!」


 クロウがこの状況を打開する策を思いついた。


 走って移動し、催眠術で仲間を操る男の前に行った。ズズが黒い玉の連射を始める。


 クロウはギリギリで黒い玉をよける。しかしゴオウはカンなど働かない。


 ズン! ズン!


「くっ!」


 肩と腹に二発くらい、うずくまるゴオウ。みなの催眠術がとけた。


「何をしてるんだ?俺たち」


 眠い目をこすりながらスピードがあくびをする。


「敵の襲撃を受けてたんだよ。どうにか倒したがな。そこにいる」


 ゴオウがみなを睨みつける。


「殺るか」


「殺生はダメだ」


「クロウ。お前はそれを慈悲と思っているのか? 俺は人の過去が読める異能を持つ。こいつは催眠術で人を殺しまくっている。その数300人を超える。それでもまだこいつを無罪放免にするのか?どうだ」


「うっ」


 ロードが一歩前にでる。


「殺るなら早くやれ!」


「何を言っている。お前には極限の苦しみを与えてやる。覚悟しろ」


 ロードのなわしろが二本に別れゴオウの両足を捉える。


「ふん!」


 ロードが念じるとそれぞれ逆に足を引っ張りゴオウの股が裂けていく。


「うぎゃー!」


 ゴオウの絶叫。しかしロードは手を緩めない。


 バギィ!


 ついに片足がもげてしまった。あまりの苦しみに声がでない。


 ロードのなわしろが胴にからみつく。いったん二メートルほど宙に浮き、そこから地面にたたきつけられる。


「ぎはぁ!」


 何度も何度も地面に打ち付けられ、気を失うゴオウ。


「もういい、やめろ」


 スピードがロードを止める。


「だめだ」


 スピードがいきなり「手」でロードを殴る。


「仲間割れはやめて!」


 涙ながらに叫ぶズズ。ロードのところに行く。


「大丈夫? ロード」


 何も言わずうなづくロード。


 クロウがゴオウのところに行き、脈を確かめる。


「死んでる。気がすんだか、ロード」


「しょせんお前は妖怪だ。俺とは相容れない」


 スピードが下を向きながらぼそりとこぼした。



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