食い逃げ野郎
「待てー、待ちやがれー!」
こちらに走ってくる大柄の男。クロウの前でピタリと止まり、くるりと振り返り真っすぐ前を睨む。
「はぁ、はぁ、……デカいくせにすばしっこい奴め……」
二人の料理人と思しき男が大柄な男と対峙する。一人は棍棒、一人は包丁を手にして。
「へへん」
クロウの目の前でケンカが始まった。二人の武器を手にした者達とやり合う気満々の大柄な男。
「くらえ!」
左の男が棍棒を打ち下ろす。大柄な男がそれを左手で払いながらスパンと顔面に裏拳を放つ。棍棒の男は一発で崩れ落ちる。
その時クロウは気付いた。革ジャンの下にあるべき右腕が無い事に。
それを見た右の男が包丁を左手に持ち替え、何やら武術の構えを取る。
「ふははは」
大柄な男は余裕でゆったり左手を前に出す。
「せい!」
包丁が振り下ろされる。男は左手で内受けをすると、次に見えないほど速い回し蹴りを料理人の後頭部にキメる。
ドサッ
料理人がうつ伏せに倒れる。
「どんな武術も俺には通じねぇ」
満面の笑みの大柄な男。
それを見ていたクロウが拍手をしながら男に近寄る。
「お前の武術はなんだ?」
男がクロウを見やりながら答える。
「なんてことない空手だ」
「凄い腕だ」
「まぁな。世界を取った事もある」
「世界チャンピオンか。どうだ、俺の用心棒にならないか? 飯の心配が無くなる」
男は考えている。
クロウは金を取り出し、料理人の一人に握らせる。
「これで足りるかな」
クロウから金をぶん取ると、料理人二人は帰って行った。
大柄な男が笑顔で見送りながらクロウに言う。
「その話、引き受けた。俺の名前はスピードだ。皆からはそう呼ばれている」
左手を前に出す。
クロウは握手をしながら名前を名乗る。
「俺の名前はクロウ。よろしくな」
「金持ちのようだな」
「まあな、稼ぎながら旅をしている」
「お前は異能者か?」
「ああ、でも敵を倒すとかはできない」
クロウの杖を見る。
「戦うのはその槍でか?」
「こりゃ槍じゃないよ。ただの杖だ」
「先っぽになんかジャラジャラついてんな」
クロウが杖を地面にトンと着く。チャリンと音が鳴る。
「先っぽに着いているのは大切なものだ。この杖で戦うことはない」
「ふーん。あ、また腹がへってきた」
「ははは、大食らいだなぁ。早速何か食いに行こう。俺も昼メシがまだだ」
歩きながらクロウが尋ねる。
「どこに向かって旅をしているんだ?」
「西の果て」
「じゃぁ行き先は同じだな。心強い。西の果てに何があるんだ?」
「知らないのか? 古代の遺跡が眠っているというのを」
クロウは思い出す。
「知らなかった。ある占い師のばあさんに西へ行けと言われただけなんだ」
屋台に着いた。並んで注文をする。出てきた飯を旨そうに食うスピード。
クロウもラーメンをすする。スピードがクロウが立てかけていた杖の先に付いている小瓶に触れようとした時。
「さわるな!」
「なんだよ急に。怒るなよ」
「大事なものだ。以降二度と触ろうとするなよ」
スピードはまた飯を食らいながら言う。
「はいはい。触りません。旦那」
ふて腐れてまたラーメンをすするクロウ。気まずい空気が流れる。スピードが話題を変える。
「俺は道場の師範になるんだ。その為には完全な体がいる。弟子に型を教えるためだ。それで旅をしているんだ。お前はなぜ旅を?」
「世界平和のためだ」
「ははは、ちゃんと答えろ」
「知らないよ。そう言われたんだよ」
「主体性のないやつだなぁ」
クロウは水をガバガバ飲む。スピードは酒をくらう。
「ま、そのうち西の果てに着く。そこで分かるさ」
クロウが勘定を払い、また出立する。
もうすぐ国境を越える。
次は警察機構がない、ギャングが支配する国だ。
慎重に進まなければならない。
檻の中に捕らえられた男が座っている。仕事でミスをし、博打でかき集めた金を無くし、逃げ出したところを捕らえられたのだ。
ひょろ長い顔のギャングの男が檻の前に立つ。
「ミスをした代償は分かっているだろうな」
「へん。どうとでもしやがれ」
「そうさせてもらう」
ギャングの男の背後から一筋の紫色の針が見え隠れしている。男が自ら檻の中に入る。
「これをプレゼントしてやる」
そう言うと、囚われた男の前にナイフをポトリと落とす。
男は急いでナイフを拾い、斬りかかる。
「うりゃー!」
薄ら笑いを浮かべるギャングの男。囚われた男はすでに動けない。
背中に紫色の針が刺さっているのだ。毒が体に行き渡る。
囚われた男は最後の力を使い逃走を試みる。
瞬間移動をするも、鉄の檻に阻まれる。
「俺が欲しいのはその異能よ」
毒が強くなっていく。
痙攣し、囚われた男は死んだ。
「我は成し遂げたー!」
男が叫ぶ。瞬間移動の異能がギャングの男に取り込まれる。
異能者はこうして成長していく。
敵の数は減っていくが、その分強力な敵が育つ。
ギャングの男が檻から出る。
クロウ達の前に新たな困難が襲いかかろうとしている。
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