劣等異能者クロウ

村岡真介

第一部 旅路

「悲しいか、苦しいか。みじめな異能しか持たぬそなたでは復讐はかなわぬ。西じゃ、西を目指すのじゃ。その果てにそなたの夢を叶える所がある。その旅路は果てしなく、恐ろしく困難なものになるであろう。しかし心配はいらぬ。そなたを助ける仲間が待っておる。そなたの異能は一見劣っておるように見えるが、そやつらを導く道標となろう。この地獄のような世界を救えるのはそなたしかおらぬ。ゆくがいい……」


 ………


「はっ」


 クロウは目覚めた。


「夢か……いや、夢じゃない……」


 起き上がりテーブルにある水差しからコップに水を入れる。


 頭が少し痛い。胸が苦しい。ゴクリと水を飲み込む。


(西の果てに何があるんだろう)


 黒いズボンをはき、白い長袖の着物を羽織り帯を締める。リュックを背負い長い杖を握り、ドアを開ける。


 宿屋を出る。もう金が底をついている。稼がなくてはならない。


 杖をつき、重い足取りで飲み屋街へ向かう。キョロキョロ見て回ると、あった。賭博場が。


「さぁさぁ右や左を行き交う旦那方!遠慮はいらないよ。遊んでいきやせぇ!」


 威勢のいいハゲずらの男が大声で叫んでいる。


「一勝負、頼む」


 クロウが台の前に立つ。


「いらっしゃいませ、旦那様。ルールはお分かりで?」


「あぁ、まあな」


「では、この豆を茶碗の下に隠します。あちきが動かしますんで、豆が入っている茶碗の前にお代を置いてくだせぇ!」


「ん」


(右だ)


「では参ります!」


 ハゲ頭が三つの茶碗の一つに豆をコロンと入れる。それを勢いよくくるりと返し台の上にパンッ、と置く。


 くるくると茶碗を左右に動かす。そして三つ並べてピタリと止めた。


「さぁ、豆はどの茶碗に入っていますかね?」


「右だ」


「はははー。残念」


 ハゲが嬉しそうに茶碗を上げ、金をぶんどる。


 クロウが低い声で噛み付く。


「真ん中を開けろ」


 ハゲは満面の笑みで真ん中を上げる。何もない。


「最後の一つも……」


 ハゲの額からドッと汗が。


「早くしろ!」


 憎しみの眼でクロウを見、ハゲは左の茶碗をゆっくり上げた。当然そこには何もない。


「左手を開け」


 ハゲはクロウを睨んだままだ。


 観念したように左手を開いた。そこにはあの豆が。


「俺の勝ちだ」


 悔しそうに豆をぐりぐりしているハゲ。


「もうひと勝負。ただしイカサマはなしだぜ」


 おもむろに豆を茶碗に入れて次の勝負が始まった。


 イカサマなき勝負は見えている。クロウの目の前に札束が積まれていく。


 次第にこの勝負を見つめる野次馬が増えていく。


「次」


「もう、勘弁してくだせい旦那……」


 ハゲがズタ袋を逆さにする。払う金が尽きたのだ。


 山と積まれた札束を袋に放り込み、クロウは立ち上がる。


「明日もたのむぜ」


「無茶苦茶ですわ。こちとら無一文でさーね」


「ふん」


 クロウは人混みの中に消えた。


「……おい」


 ハゲの後ろに一人の少年が。


「分かってるな」


 少年はクロウの後を付け始めた。


 宿に帰ったクロウは、疲れが出てどさりとベッドに沈み込む。


 どれくらい眠ったのだろう。クロウは尿意をもよおし目を覚ました。


 部屋を出て2階のトイレに入る。用を足していると、クロウの「カン」が働く。


 ダッシュで部屋に帰ると、壁から体を半分出しクロウの金を抜き出している少年の姿が。


「おい、何をしている!」


 少年はすぐに壁から引っ込み隣りの部屋へ行ったようだ。


 隣りの部屋に飛び込むと、少年の姿はもうない。


 クロウのカンが働く。


「下だ」


 階段を降りるクロウ。下へ着くと少年が玄関から逃げるところだった。


 するりとずっぽ抜ける少年。追うクロウ。


 追いかけっこが始まる。少年は分からないように路地裏を右に左に進むも、クロウのカンには通じない。


 とある小屋へ飛び込む少年。


「はぁ、はぁ、はぁ、追い詰めたぞ……」


 クロウはドアを激しく開ける。


 中に入った瞬間、クロウはひらりと斧をかわす。


「そんな遅い攻撃、埒もない」


 斧を振り下ろしたのは、あのハゲだった。


「くそっ!これでもくらえ!」


 今度は斧を横一閃。かわすクロウ。


「くそ、くそ、くそったれ!」


 何度斧をぶん回しても、クロウには全く当たらない。


 ついに力尽き、肩で息をしているハゲにクロウは冷たく言い放つ。


「金を返せ」


「旦那、待ってくだせぇ。明日の朝飯、この二人の子供の朝飯がねえ……」


 クロウは少し考え、札を数枚取り出した。それを床に置き、後ろを向いた刹那。


 ブン!


 斧が振り下ろされる。


「無駄だ」


 斧が無情に床に突き刺さる。


 クロウは振り向きもせず、夜に消えた。

 







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