第10話「バトルの幕間 ―休戦中の学歴観測―」
「判定は――引き分けッ!」
観客席がどよめいた。勝敗がつかなかったのは、この《学歴バトルロイヤル》初の事態だった。
中学時代の親友であり、偏差値74の東都大学首席・黒瀬鷹也との死闘を終えた風間輝は、ぼろぼろのジャージのまま、ステージ袖に引きずり出される。
「はぁ、はぁ……これが、友情の……エグみか……」
「お疲れ、Fランの星。まさかあんなバトル見せられるとはな」
控室に入るなり、司会進行役である謎の男“ガクレキン”が現れた。博士帽にガウン姿という胡散臭い出で立ちで、常に偏差値を数値で表示するメガネをかけている。
「正直、想定外だよ。主催側も困ってる。“感情”で拮抗したのは予測不能だったらしい」
「……おいおい、主催って誰なんだよ。まさか学歴の神様か?」
「言えないね。ただ、今回のバトルロイヤル、どうやら“実験”なんだとさ。新しい指標を探すためのね」
風間は冷たい水を一気に飲み干し、壁にもたれる。背中がジンと痛む。
「……実験、ね。俺たちが、偏差値のモルモットってわけかよ」
「その通り。だが、君のような“平均以下”の存在が、ここまで残るのは彼らにとっても“誤算”だ」
その時だった。
――バリバリバリィッッ!!
天井から走るノイズ。照明が一瞬、赤黒く明滅する。
「な、なんだ……!?」
場内放送が割れたノイズとともに中断され、モニターには見慣れぬ文字列が表示される。
《記録不能:EX-ノードに接続。再評価プロトコル起動。》
「……これは……運営外の“第三者”だな」
「第三者?」
ガクレキンが真顔になる。軽薄なキャラが一瞬で消えた。
「説明は後だ。控室から出るな。今の“学歴領域”は一時的にフリーズしている。君に影響はないが、外に出れば消されるかもしれない」
風間が眉をひそめた瞬間、控室の壁がスッと開き、誰かが入ってきた。
「……あんたが、風間輝?」
現れたのは、黒い学生帽をかぶった、どこか古風な雰囲気の少年だった。まるで昭和の大学生のような出で立ち。だがその眼は異様に澄んでいた。
「誰だ、お前……」
「“学歴観測者”さ。俺はこの世界の“偏差値の意味”を観測してるだけだよ。……君に、興味がある」
その声は落ち着いていたが、何かが風間の中の“劣等感”に共鳴した。
「この戦い、君はもう気づいてるだろ? 本当の敵は、バカにする奴らじゃない。バカにされる自分自身だってことに」
風間は口を開きかけて――閉じた。
代わりに、握りこぶしを作る。
「……ならさ、俺は観測なんてされる側じゃなくて、“学歴”って奴に殴り返す側でいたいんだよ」
少年は静かに笑い、去っていった。
「……面白いな、君。じゃあ、後半戦。楽しみにしてるよ、“偏差値37”。」
《観測ログNo.10 終了。後半戦開始まで、あと1バトル分の猶予を与える》
モニターにそんな意味深なメッセージが浮かび、風間は深く息を吐いた。
「……ようやく半分かよ。こっからが、本当の地獄ってわけだな」
戦いの熱が冷めないまま、風間の胸に再び火が灯る。
そして“バトルロイヤル後半戦”が――幕を開ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます