第9話「友よ、あの頃には戻れない」

「風間 輝、8連勝」


場内アナウンスが響いた直後、ステージに一人の青年がゆっくりと姿を現した。


その一歩ごとに、空気が静かになっていく。

まるで彼の登場を知っていたかのように、観客の期待が集中する。


そして――名札に書かれた名前を見て、風間の表情が固まった。


「……黒瀬……」


青年は鋭い目つきのまま、柔らかく笑った。


「よぉ、輝。……ずいぶんと懐かしい顔してるな」


黒瀬 鷹也

偏差値:74

所属:東都大学 首席入学

スキル:《論理反転(ロジカル・リジェクト)》


風間の心臓がひときわ大きく脈打つ。


「マジかよ……中学んときの……」


「よかった、覚えてたか。中三のとき、席隣だったろ。

数学でお前に勝てなくて、テストのたびに鉛筆削って気合い入れてた黒瀬です」


風間は苦笑する。


「鉛筆って気合い入れる道具だったのかよ……」


「そっちは相変わらずだな」


少しの笑いのあと、二人の間にピリッとした緊張が走った。


「で、なんでこんなとこに?」


「お前を見てたら、黙ってられなくなった」


黒瀬は目を細める。


「俺はずっと努力して、偏差値上げて、大学も首席で入って、

それなりに“正解の人生”を歩んできたつもりだ。

でも――お前が、何も持たずに笑ってるのを見てたら、ずっとムカついてた」


「……お前……」


「だから俺は、お前をぶっ飛ばしに来た」



【スキル発動:《論理反転(ロジカル・リジェクト)》】


黒瀬の体に青白い光が走り、空間がゆがむ。

風間の言葉、行動、存在意義――あらゆる“筋が通ってないもの”を否定し、力に変える。

それが彼の能力だ。


対する風間の能力も発動する。


【偏差値差:37→ 能力上昇率 +370%】


風間の筋力、反応速度、直感力が飛躍的に向上する。

だがその力は“増幅されすぎて不安定”。

扱いきれなければ、自分をも傷つける。


風間:「あーもう、なんか身体がムズムズする……!」


黒瀬:「上等だ。やろうぜ、輝。あの頃の続きだ」



バシュッ!


風間が踏み込む。黒瀬もすぐに応じる。

拳と拳が、真正面で激突した。


「お前さぁ!! 中学のときは俺より下だったじゃん!!」


「だからこそ! 俺はお前に勝ちたくて、勉強して、必死で走ってきたんだよ!!」


バキッ!


風間の肘が黒瀬の腹を打つ。黒瀬はすぐに反撃。

互いの攻防に、観客が息を呑む。


「じゃあ、なんで俺がFランになっただけで、お前がキレるんだよ!?」


「それが“許せない”んだよ!!

俺はずっとお前を追ってきた! “いつか並べる”と思って!!

でも、お前が勝手に下がったら、俺は何のために努力してきたんだよ!!!」


「……お前、ほんとにそれ、俺に言うか……!?」


風間の蹴りが黒瀬をとらえる。黒瀬もスキルを駆使して弾き返す。


「お前が下に行ったら、俺の“勝利”はどこにあるんだ!?

“勝った気”になっても、お前が笑ってたら、それ全部ウソになるんだよ!!!」


「うっせえよ!!!」


ズガァン!!


拳と拳が、互いの顔面を直撃。二人同時に弾き飛ばされる。



両者、沈黙。

ステージは一部崩壊。

観客の間にも張り詰めた沈黙が流れる。


【判定中……】

【両者戦闘不能。スキル相殺。発言応酬も互角】

【結果:引き分け】



黒瀬は膝をつきながら、少しだけ笑った。


「はは……やっぱお前……手ェ抜いてなかったんだな」


風間も、拳を見つめて息を吐く。


「まぁな。……これで勝った気になられても、ムカつくしな」


「次は、決着つけようぜ。今度は、絶対勝つ」


「望むところだよ。ジュースは奢らねぇけどな」


黒瀬はフッと笑って、その場をあとにした。

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