病が見せる悪夢

夕緋

病が見せる悪夢

あなたに愛を垣間見てしまうなんて、本当に馬鹿げている。

でも騙されている間はとても幸せだったわ。あなたは未だに”理想の人”として夢に出てくるの。あなたが私に何を隠していて、それがどんなに私を傷つけたか、分からないはずがないのに。

私が真実を知っていることを伝えたって、あなたはきっと「騙された方が悪い」とさえ言わない。私の前ではそれこそ”理想の人”を演じる。そうね、あなたが言うのはきっと「そんなことを考えさせるほど不安にしてごめんね」とか、そんなことだわ。そして私の信じる真実は事実とは違うって説明をするの。愚かな私は目の前の人が嘘を並べ立てていると知っているのに、あなたにとって理想的な振る舞いをするんだわ。「そうだったのね、安心した。もう不安にさせたりしないでね」……とんだ茶番ね。

でも私はこの茶番をやめられない。自分がどんなに愚かなのか分かっていてあなたの側を離れられない。あなたは私を蝕んだの。あなたがいない未来を考えられないようにした。数年後どころか三十分後にあなたがいないことさえ考えたくない。これはもう恋とか愛じゃなくて病ね。

あぁ、そうね。病なんだわ。恋のような煌めきも愛のような安心もここにはないんだもの。あるのは不安と自己否定ばかりなのに、ほんの一粒の夢から離れられないなんて、本当に愚か。

あなたが潰えてくれたら楽なのに。

あなたが私の描く夢を打ち砕くほど失望させてくれたら、きっと終わりにできるのに。幻滅させて、私の心を傷つけて、”愛情”だって勘違いを捨てさせてくれたら、きっと。

今以上に病に蝕まれたら、何をしてしまうか分からない。なんとなく分かるの。今の苦しみはギリギリ持ちこたえている理性のおかげなんだって。それが失われたら……分かるでしょう?

だから、どうかその手で終わらせて。

そしたら私も、終わりにすることができるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

病が見せる悪夢 夕緋 @yuhi_333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ