その6

 燭台の火が室内をぼんやりと明るくしている。二月になっても寒さは変わらず、空気の通り道を少しでも塞いでおかないとたちまち冷え込んでしまう。


 月凛の寝台の上に、水鶴はいた。

 愛する人に覆いかぶさり、唇を重ねている。


「どう? お互い旦那さまに抱かれている身。私だって自然と上手くなるわ」

「月凛様、お見事です……吸い込まれるよう……」


 月凛の舌は水鶴の舌を絡め取り、かつてない快感をもたらした。

 相手の指が水鶴の胸の先にある蕾を摘む。水鶴は吐息を押さえ、必死にこらえる。

 最初の頃はされるがままだった月凛も、いつしか様々な技術を習得して水鶴を追い込んでくるようになった。


 水鶴は暗殺者の修行を積んできた。傷にはある程度は耐えられるし、毒にも耐性をつけている。しかし、幽谷と二つの先端だけはどうしても強くならなかった。一方的に責められれば立て直すことはできない。最近はそれで悶絶させられてしまう夜もある。


「さあ、これでどうかしら」


 月凛が少し速く指を動かす。


「う……ああっ!」


 全身を包む快感に抗うことはできず、水鶴の体は跳ねた。

 月凛に全体重を預けると、しっかり受け止めてくれる。


「ふふ、今日は一段と乱れたわね。かわいらしいわ」

「……後で反撃します」

「やってみなさい。楽しみにしているわ」


 二人はそのまま、折り重なって黙り込む。水鶴は、月凛の豊かな胸の谷間に顔を埋めた。責める側も熱中していたようで、月凛の肌は火照っている。


 ……幸せな熱だ。


 月凛に抱きしめられ、水鶴は目を閉じる。

 暗闇の中に、死体の処分を終えた七人目の孫式の顔が浮かんだ。すぐに振り払う。小間使いのことなど、今は考える必要もないのだ。


 水鶴にとっては東江楼が、月凛の近くが人生のすべてだ。

 気がつけば惹かれ、いつしか離れられなくなっていた。

 この聖域を侵そうとする者は、あらゆる手段を用いて排除する。水鶴の覚悟はもう決まっている。


 月凛が水鶴の髪を梳いてくれる。その感覚がたまらなく心地よい。ほどよい疲労感を味わいながら、水鶴は月凛の肌の熱を感じる。心臓の脈が、かすかに聞こえる。


 ……この熱はわたしだけのものだ。わたしにとっては月凛様がすべて。わたしと月凛様の邪魔は誰にもさせない。わたしは、他に幸せを知らないから……。




〈了〉

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月鶴楼殺人事件 雨地草太郎 @amachi

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