閑話 桜真里花の初恋~その1~

 私の家はそこそこ格式の高い家柄だ。


 『笹宮家の分家』


 この世界ではそれだけで一つのステータスとなる。

 父も笹宮本家の事業に関わっている。

 どんな仕事をしているのかは,よく知らないけれど。

 まあ,おかげでかなり裕福な生活を送れているのは感謝している。


 私には幼馴染みがいる。

 笹宮本家の跡取り娘。

 『笹宮まどか』


 初めて会ったのは小学校に上がる前だった。

 彼女のおばあさま,ローラさんの血を濃く引いているのか金髪で色白の女の子。

 まるでお人形のようで,一目見ただけで,仲良くなりたいと強く願った。


 願いが天に届いたのかは知らないが,彼女と一緒に黄梅学園初等部に入学できた時は,本当に嬉しかった。

 気弱でいつもおどおどしていた子だったけど,だからこそ彼女を守りたいと強く思った。

 彼女を守れるように,勉強も運動も頑張った。

 勉強は彼女の方が良く出来てたけれど。


 いじめられそうになったら助けた。

 困っていることがあったら相談に乗った。

 初等部を終える頃には,互いに『親友』と呼び合えるくらい仲良くなれた。




 中等部にも一緒に進学できた。

 これからも一緒に『青春』出来ることが嬉しかった。


 でも。


 彼女も私も『恋愛』を望むことは難しい。

 お互い『跡取り娘』だったから。

 家を存続させる為に,そこそこの相手をあてがわれて,結婚して子どもを産む。

 それが笹宮家と,その分家に産まれた者の使命のようなものだ。

 私もずっと,そう思っていた。




 あれは初等部5年生の頃。

 私に弟が出来た。

 母は高齢出産だったので大変だったそうだが,母子ともに健康で良かった。

 父は跡取り息子が出来たことを,とても喜んでした。

 そして私に言った。

『これからは自由に生きなさい。やりたいことを見つけて,好きな人と結ばれて,自分で幸せを見つけなさい』

 その頃は父の言った言葉の意味がよく分からなかったが,歳を重ねるに連れて自分の立場が自覚できるようになった。


 でも。

 まどかはそうではない。

 申し訳ない気持ちがいっぱいになった。

 だから。

 まどかが少しでも笑顔でいられるように,これからも頑張ろうと心に誓った。




 黄梅学園の高等部に進学して,1ヶ月ほど経ったときのこと。

 あれはGW明けの日のことだった。

 その日のまどかは元気がなかった。

 表向きは元気に振る舞っていたけれど,長い付き合いの私には分かった。

 まどかは放課後になっても帰ろうとしなかった。

 私も一緒にいてあげたかったが,どうしても外せない用事があった。

 夜,電話をして話を聞いてあげよう。

 それだけ決めて,私も下校した。


 その夜の電話に出たまどかはいつものように,いや,いつも以上に元気だった。

 昨日,父親に進路と縁談のことを話されて落ち込んでいたけれど,そんなことはどうでも良いと思えるようになったと言っていた。


 一体彼女に何があったのだろう?


 聞いても詳しくは教えてくれない。

 そのうち教えてくれるだろうかと思って深く追求するのはやめた。




 その後も教えてくれることはなかったけれど,ある日,その答えが分かってしまった。


 家庭科の,調理実習の班決めの時。

 まどかは一人の男子生徒に声を掛けた。




 分かってしまった。


 笹宮まどかは『恋』をしたんだと。

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