山岳王国
「これは、このあたりで栄えていた山岳王国の話なんだが……」
ーー 伝書・永劫に封じられし王国の遺勅 ーー
巍然たる山岳の王国、天より落ちし邪なる呪詛を受け、深き災厄に覆われる
王ら、龍より神託を蒙り、二振りの龍神閃、唯一無二の剣舞を得て、封凶祠の神威を仰ぎ、呪詛を鎮めんとす
然れど、その封印の報いは、国の名を天地の記録より永劫に抹消することなり
王族の血統を継ぐ者、永遠にこの地を安んじ、繁栄をもたらせ。
授かりし宝、その威をもって地を護り、天下泰平を築かん
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「私が伝え聞いた話とは違うな……」
お父は巻物をじっと見つめ一文一文を追っている。
もちろん、お父もこの伝承を祖父から聞いていたに違いない。
「あれだろ? 一組の双子によって、一夜にして滅ぼされたという王国の話」
そう、これがこの
これが原因で、双子の俺たちはいつも肩身の狭い思いをしていた。
「でも、名無しの
「私も双子が国を滅ぼした悪と聞いていたが、この一文を見てみろ。封印の代償に国を消さなくてはいけないと書いてある。滅ぼしたとは違う」
「どうして、間違って伝えられたんだ?」
この巻物の主である
けれど、この巻物が開かれているのを見ると
「父様、剣舞って書いてあるわ。それにこの絵の目、この紋の目に似ていると思うの」
「たしかに似ているな」
「この剣を握っている人物は、二人。双子? 腕先が青い……。
「俺たちと同じ……双子。そして青い紋様を持っている……」
しかし、この青い紋様についての記述は、どこにもない。
何か悪さをしたりするものでないのなら、もうこのままでもいい気がする。
周囲は異様なほど静かで、気味が悪い。
一刻も早く、この郷から出たい。
でも、
俺が「もう行こう」と促しても、「あと少しだけ」と取り合ってくれない。
「この
「はぁ……。でも、
「石柱ではないが、湖の真ん中に石棺がある。この郷でよくわからないものはそれだけだ」
「え? あの湖に?」
「あの湖か……」
いやな記憶ーー沈んでいく視界、冷たい水、息苦しさーーが蘇る。
しかし、今はそれどころではないと思考を切り替える。
そして、話題は〖宝〗に移っていく。
「この内容から察するにこの〖宝〗はこの剣……」
手に持つ剣の紋を俺たちはそれぞれ見遣る。
突如、祭壇が輝きだすーー。
「まぶしっ!!?」
気づけば、真っ白な世界の中に立っていた。
「な、なんだ……ここは……どこ?」
目の前に浮かぶのは、剣を持ち、静かに舞う男女。
それは俺の記憶ではなかった。
まるで古い映像のように、謎の光が剣舞を舞う男女へと降り注ぎ、その奥義を授けているかのようだった。
その映像の中で、謎の光が男女を通して俺に語りかけている気がした。
「この剣舞は、お前たちがいつか真実を知るためのものだ。決して忘れるなーー」
「その剣舞は!!」
真っ白な世界が次第に揺らぎ、消えていく。
光が収束し、現実の景色がゆっくりと戻ってきたーー。
「
突然、お父の声が響いた。
気がつくと、お父が俺たちを強く揺さぶっていた。
「お、お父ーー」
「ち、父様ーー」
「突然、お前たちが動かなくなったんだ! どれだけ心配したか」
「祭壇が光って!」
「祭壇が? 光る?」
お父には見えていない?
「そ、それよりも、なんか剣舞を忘れるなって」
「私も。……それにその舞っていた剣舞は、父様が教えてくれた剣舞だったわ」
「私の教えた剣舞は、私の父から教わったものだ。必ず子供へのつなげとしか言われていないが……この伝書がさす剣舞なのかもしれない」
その瞬間、祭壇から強烈な光が放たれ、封じられていた存在が目覚めるーー。
先ほどみた記憶の男女が祭壇から浮かび上がると、静かに言葉を発した。
「ようやく戻ったか……我が末裔よ」
その声……俺は聞いたことがある。
名無し郷で目から血を流し呪いに蝕まれた郷民を「斬れ」と言った声だった。
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