望まぬ再会
山に入り、獣を狩ることができる春が近くなってきた頃だった。
もうすぐ俺たちは都に向けてこの名無し
山賊のこともあり、
面倒ごとは嫌だけど、仕方がない……。
「……誰か、医者を……」
泥にまみれたその身体は、皮膚の色がわからなくなるほど汚れている。
頬はげっそりとこけ、目はうつろ。
長い飢えに蝕まれ、まるで生命が削られ尽くそうとしているような風貌だった。
「……お前はーー忌み子っ!?」
「なんでーー!?」
その男の顔に見覚えがあった。
その顔は確かに
だが、その姿は以前とまるで違った。
「
男の目が、
「お前たちが! お前たちが……何か……したんだろう!!」
「何を言ってるんだ! 俺たちは何もしていない!」
龍梅が怯えるのを見て、咄嗟にその男の胸倉を掴んだ。
「お前たちがしても、俺たちは何もしなかっただろ!」
あの理不尽な扱い、影のように生きることを強いられた日々。
お父が間に入ってくれなかったら、この弱った男を殴る卑怯な男になっていただろう。
その男は、俺たちが赤月哭郷を出てから、3か月後に呪いを解くという名目で逃げだした
彼は必死に息を継ぎながら、震える声で何度も何度も不吉な言葉を紡ぎ出していた、滅びと――そして呪い。
「お、俺は、他の郷民が叫び狂い始めて、こ、怖くなったんだ。家に閉じこもり、誰にも合わず……で、でも、妻とこ、子供が同じように狂い始めたんだ……」
その男は、逃げるように家の外に出て郷の様子を目の当たりにした。
正常な人間は自分を除いて数人しかいなかったとうつむき「妻も……子供も……置き去りにして逃げたんだ……」と涙を流した。
「でも……仕方がなかったんだ! わ、わかるよな!」
自分を正当化しようとするその声だが、滲み出る罪悪感があった。
「みんな目から血を流しーーその紋! その紋のように目が、目が、目が!」
男の目が剣の柄に突き刺さるように向けられた瞬間、彼は狂ったように叫び始めた。
「呪いだ……! 呪いは……感染するんだ!!」
彼は怯えたように後ずさるも、震える手を伸ばしながら俺たちに訴えかける。
「何か……知ってるんだろ……!? 助けてくれ……!」
彼はふらつきながら、お父の腕にしがみついた。
その指先は異様なほど細く、力なく震えていた。
「私たちは何も知らない。残念だが……」
「そ、そんな……、みんな死んでしまう。もう、俺もダメだ……」
その瞬間、違和感が走った。
男の目がゆっくりと赤く染まり始めるーー血が滲むような薄紅ではなく、異質な赤。
そして、赤黒い靄が全身を包み始めた。
「
「目が、目が……見えない。あ……あ……!」
次の瞬間、血が。目から赤い雫が流れ落ちた。
それは涙ではなく、まるで絶望をあらわしたような生々しい赤。
「うわあああああ!!!」
男は狂ったように叫び、両手で顔を押さえ、爪を立てて引き裂く。
赤黒い靄が生命のように蠢き、
「うそだろ……」
なんなんだ! 何が起こってるんだ!?
俺の頭の中でこの赤黒い靄は危険だと警鐘が鳴る。
「こっちくんな!!」
じわじわと這いよる靄は、俺たちを包み込もうとしてグワッと四方へ伸ばし広がる。
突然ーー俺の腰に差していた龍神閃が光を放った。
「今度は何!?」
俺は驚きに息を飲みながらも、本能的に剣の柄をしっかりと握った。
剣を握った瞬間、心の奥底で何かがざわめいた。
「……斬れ」
どこからともなく響いてきた。
それは、まるで幽界から囁くような、神秘的な声だった。
焦りながらも剣を構え、反射的に「斬る!」と叫び、上から斜めに振り下ろした。
「龍剣ロンジエン!
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