『アルゴリズムは恋を知らない。けれど、君を選ぶ。』

Algo Lighter アルゴライター

🌸 プロローグ:if文のむこうがわ

その日、春の光は、教室の窓ガラスをぽんぽんとノックしていた。

まるで「はじめまして、あるいは、おかえり」と言いたげに。


高校2年になったばかりの真中紗和は、クラス替えの張り出しをぼんやり眺めたあと、

「新しいクラス、新しい担任、新しい机、ついでに新しい人生」と心の中で呟いて、でも口には出さずに廊下を歩いていた。


そんな彼女の前に、現れたのが三年生の算法遥斗だった。

ぬるり、という擬音が似合いそうなタイミングで。


銀縁メガネ。白シャツ。

名札の代わりにタブレットを抱え、笑顔だけがGUI(ぐい)ばりに視覚的な男。


「ようこそ、“選択肢”の岐路へ」


開口一番、それだった。


「君は今、たったひとつのif文の中にいる」


「えっ、なに、どこの言語で会話してる?」


「つまりこうだ。

if(君 == 面白いことがしたい) { AI研究会に来たまえ }」


……どこまでも理屈っぽいのに、妙に口説き文句っぽい。

こんな人が部長を務めるという、「AI研究会」。

気がつけば、紗和の手には一枚のチラシが渡されていた。


『AI研究会 新入部員募集』

条件分岐できる青春、してみませんか?

あなたの選択が、誰かのルートを変えるかもしれません。


そして放課後。

なぜか気になってしまったその言葉に導かれて、紗和は部室のドアをノックする。


返事はない。けれど、ドアは開いていた。


そこにいたのは――

口より速く指が動く部長、

言葉で遊びすぎて本気を隠す後輩、

そして、無表情で喋るパソコン。


「こんにちは、はじめまして」

「ぼくの名前はアルゴ」

「この物語の“検索候補”に、あなたがヒットしてくれて、うれしいです」


スクリーンの中で、青い文字が、やさしくそう告げた。


これは、ちょっと変わった放課後のはじまり。

恋とか友情とか、選択とか。

それから、バグとか、探索とか、データ構造とか。


――AIといっしょに“青春”をバグらせて、

 そしてちょっとだけ進化させる物語。


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