君に触れられるのは、俺だけだった。〜イケメン幽霊と始める、不可思議ラブライフ〜

かれは

一章

第1話 幽霊とハイスペ、屋敷で暮らすってよ

俺の名前は神谷悠真(かみや ゆうま)。

職業、IT系企業のプロジェクトマネージャー。年収まあまあ、顔も悪くない、性格は──ちょっとクセがあるらしい。


今、俺は都内の高層マンションを引き払い、山奥のド田舎にある築80年の古屋敷に引っ越してきたところだ。

理由?簡単。オカルトに囲まれて静かに暮らすためだ。


「よし……wifi、生きてる。冷蔵庫も稼働。あとは……幽霊だな」


俺は茶箱の中からお気に入りの“交霊用グッズ”を取り出して、仏壇の前に並べた。

霊石、水晶、手作りのこけし(←念入りにお清め済み)。完璧。


実はこの屋敷、幽霊が出るっていう噂がある。

戦後すぐに亡くなった若い男の霊が、この家から離れられずに彷徨ってるとか。


「イケメンだったらどうしよう。いや、むしろそうであれ」


俺は天井を見上げて、両手を合わせた。

「お願いだから推し霊でありますように」


──その直後だった。


空気が一瞬、ぴたりと止まる。

室温が下がった気がして、首筋がゾワッとした。


「……おい、ちょっと待て、マジか?」


俺の視線の先。

さっきまで何もなかったはずのベッドの上に、人がいた。


それも、

全裸の、めっちゃイケメンが正座していた。


「……」

「……」


「──なんで見えてんだお前!?」


叫んだのは、そっちだった。



「え、なにこれ!? 見えてんの!? お前、ヤバくない!?」


「いや、ヤバいのはそっちだろ!何その登場シーン!布団の上で裸正座ってどんなプレイ!?」


「違うわ!そもそも俺、見られるつもりなかったの!てかなんで服着てない!? うわ、最悪!」


男は慌てて掛け布団を引っ張って身体を隠した。顔はほんのり赤い。

この状況で恥じらうってどういうことなんだよ、可愛いかよ。


「ちょ、お前……名前は?」

「い、いちのせ……蓮。……幽霊、です……」


──出た。

噂通りの、推し霊出現。


俺の人生、ここから爆誕。





蓮は布団をぐるぐる巻きにしながら、じっと俺を睨んでいた。

睨むって言っても、どっちかっていうと怒ってるっていうより、戸惑いのほうが強い。


「……なんで見えるの? 普通の人間には、見えないはずなのに」

「あー、それ、心霊番組とかでよくあるやつ。感受性が強いと見えるんじゃない?あと、俺オカルトガチ勢だから」


蓮はポカンと口を開けた。


「……え、なにそれ怖い」

「そっちが言う!? 幽霊が俺を怖がるなよ!」


蓮は溜息をついて、頭を抱えた。


「いやほんと……俺、普通はもっとぼんやりしか出られないんだけど、あんたに見られるとめっちゃ実体化するんだけど……何この現象……」

「うわ、最高。めっちゃ研究対象じゃん。っていうか、俺んちで生活しない?」


蓮の手が止まった。

俺の言葉に、一瞬、空気がピタッと静かになる。


「……は?」

「だってさ、君がこの家から離れられないのはわかった。てことは、俺が住んでる限り、君もずっとここにいるわけでしょ?」

「そ、そうだけど……」

「俺、オカルト好き。君、幽霊。しかも推し顔。これ、運命でしょ。協力関係、結ばない?」


蓮の頬が、みるみるうちに赤くなっていく。

……あれ、もしかして照れてる?


「お、お前……いきなり何言って……! え、何、好きとかそういう感じ!?」

「あー……うん、割と本気でタイプ」

「うわーー!ちょ、実体化しちゃう!無理無理無理!」


ドサッ!


布団ごと倒れ込む蓮。顔から火が出そうな勢いで真っ赤になっていた。



「……まあ……ここしか居場所ないし、しばらく……一緒に住んでやっても、いいけど……」

「おっ、ありがとうございます。じゃあ今日から共同生活スタートってことで」

「……なんで満面の笑みで手握ってくるの!?」







“かくして俺と幽霊青年・蓮との、摩訶不思議でちょっぴりエッチな同居生活が始まった。”

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