ミソロジカα〜転生令嬢は好きなゲーム世界を満喫したいだけ〜

ぎあまん

第1話 ゲーム好きの転生



 私はゲームが好きだ。

 いろんなゲームをやった。

 まぁ、アクションやらシューティングやら格闘にFPSなんかの反射神経を使うのは苦手ではあるが、それなりにジャンルの毛嫌いなしに楽しんできた方ではあると思う。


 思うが、思うのだが……。


「あら、悪役令嬢」


 うん?


「そう。もうそんな時期なのね。これは困ったわ」


 誰かが私のそばでそんなことを呟いた。

 だけど、私の視界は真っ黒。

 見えてない?

 いや、困ったぞ。


 悪役令嬢?


 そんなことより、その言葉が気になった。

 いや、見えない方が重大だろうと思うのだけれど、この時にはなぜか、それはいずれどうにかなるとわかっていた。


 それより、悪役令嬢だ。


 web小説やそこから派生した漫画なんかで聞く単語。

 女性向けゲーム(主にADVか?)なんかのヒロインに意地悪する悪役の貴族令嬢を指す言葉だ。

 単語は知ってる。

 うん。

 単語は知ってるんだ。

 だけど、概念の外側を軽く理解しているだけで、実際にはどんなものなのかはよくわからない。


 恋愛系のゲームはあんまり興味がなかったんだ。

 ううん、無念。


 しかし、あの言葉は私に向けて言ったような気がする。

 それはつまり、私が悪役令嬢ってことか?

 いや、なんでだよ。


 私、もういい歳だし?

 令嬢なんて言われるような身分でもないけど?

 でも、この状況はよくわからない。

 目も見えないし、体も満足に動かない。


 あれ?

 これってもしかして、体が小さくなってない。

 赤ん坊?

 もしかして、生まれ変わってたり?

 転生って奴だったり?


 なーんて、あはは〜〜。




 なんて現実逃避していたのもいまは昔。





 それから三年ぐらいが過ぎた。





 私の名前はシドニア・リリ・アレイシュタット。

 三歳です。

 これでもかと金髪豪華な髪に、シャンパンゴールド? 淡金色の瞳。

 あと一歩踏み込んだら不健康そうで気持ち悪いになりそうな、ギリギリを攻めた白い肌。

 ここまできたらわかると思うが、もちろん整った超絶プリチーフェイス。


 ええ、可愛い可愛い女の子ですわ!


 いい年してたはずなのに、年齢も外見も大変身ですわ!


 そんなショックを受けたのも、もう数年前。

 私もすくすくに育って三歳です。


 ええ、はい。

 どうやら転生したようです。

 しかも異世界。

 剣と魔法がある異世界。

 今日は三歳になったということで、魔法使いを呼んで魔力を鍛える授業を受けることになったぐらいに異世界。

 いまだに屋敷の外に出たことはないけれど、これなら外にはモンスターが溢れているに違いない。


 街の前を右へ左へ行ったり来たりしてレベルアップとかもやることになるかもしれない。

 それはちょっと楽しみだ。


 そういえば異世界転生にはなにか特典的なのが付き物だったと思うんだけど、いまのところそんなのはないな。

 赤ん坊の頃から意識があって思考ができる程度?

 それもほとんど寝てたようなものなのでよくわからない。

 まぁ、授乳タイムやオムツタイムや風呂なんかの時は、物心なんてすぐにはいらないって思ったけどね!


 そんな風に気楽に過ごしていても、時々あの言葉を思い出してしまう。

 そう『悪役令嬢』。

 私は悪役令嬢がどういうものかわからないが、『悪役』と付いているのが不吉だ。

 悪役なら、いずれは主人公ぶった誰かに倒されてしまうかもしれないんじゃないのかと考えてしまう。


 そんなのはごめんだ。

 だからどうにか戦う術は身につけなくてはいけないと考えている。

 命を狙われる立場なら、護身術くらいは使えないと。


 まずは魔法だ。

 この体だからね。

 さすがに剣を振り回すなんてほとんどできない。

 教師役の魔法使いは、初老の女性だった。


 最初に彼女が語ったのは、こうだ。

 魔力は誰でも持っているもので、この魔力も筋肉と同じで、鍛えなければ増えることはないらしい。

 増やせれば魔法を使うこともできるようになる。

 誰でも持っているからこそ、貴族は一般人より強くなければプライドが保てないし、なにより身の危険でもあるから、幼い頃から魔力量を増やす訓練をするのだそうだ。


「それで、攻撃魔法はいつ頃覚えられますか?」


 実際には舌ったらずだったので、「しょれれ。きょうげきまひょうはいつおぼえられましゅか?」ぐらいになっていたと思うけれど、それはそれとして、私は目をキラキラさせて尋ねてみた。


「あらあら、勇ましいことですね」


 老女な先生は「あらあらうふふ」と笑いながら、私の拳大ぐらいある水晶玉を見せてくれた。


「これは初等教育用の、簡易な魔力測定器です。この透明な水晶玉を一つの色に染めることができたら、魔法を覚えてもいいという印です」

「ほほう!」


 と手に取ろうとしたら、さっと片付けられてしまった。


「しかし、それよりも先に覚えることもあります。今日はまず、魔力の感じ方や動かし方を覚えましょう」


 ううん、まぁ仕方ない。

 その日は老女魔法使い先生……略・老女先生に魔力の感じ方、そして魔力の動かし方を習った。


「大変に優秀ですね。では、また来週」


 と帰っていった。

 来週かぁ。

 待ち遠しい。

 とはいえ読み書きとか礼儀とかの習い事も同時期に始まったので、来週になるのも仕方ない。


 あっ、この世界の一年は十二ヶ月で、一月はだいたい三十日で、一週間は七日な。

 

 神様がこの世界を創造するために巡った星の数が七つ。

 出来上がった世界から混沌が誕生するのにかかったのが三十日。

 その混沌がいまの状態に落ち着いたのが一年だってさ。


 世界創造早くね?

 いや、思い出せる神話からすれば、そんなもんか?

 まぁいいや。神話なんだし。


 でも、魔法があるんだから神様もいてもいいのかもな。

 なにはともあれ、まずは魔法を覚えようそうしよう。

 そのためには、魔力を鍛えなければ。

 見てろよ老女先生。

 来週にはびっくりさせてやるからな!


 というわけで老女先生の授業の時間になった。

 私は先生にあの水晶玉を使わせてくれとお願いした。


「では、魔力を動かす訓練を真面目になさったら、使わせてあげましょう」


 老女先生は私のわがままを軽くいなし、授業を開始する。

 魔力を使う上での説明をした後に、魔力を動かす訓練。

 だけどその時に、おやって顔をしたのは見逃さなかったぞ。


先生しぇんしぇい!」

「はい。シドニア様はよく頑張られましたから、触らせてあげましょう」


 老女先生は素直に簡易魔力測定器とかいう水晶玉を持たせてくれた。

 ちょっと冷たい水晶玉の感触は、体温の高い幼女の手には気持ちいい。

 それを握りしめて、魔力を流し込む。

 魔力を動かす訓練はしっかりしていたからな。

 こんなのはお手の物……って。

 おっ、色が変わったぞ。


「わっ」


 と思ったら、水晶玉が水みたいになって地面に落ちた。

 溶けた?

 え?

 水晶って溶けるの?

 しかしそれにしても、髪や目もそうだからって、水晶まで金色になる必要ってなくね?

 ああでも、これって壊したことになるのか?


先生しぇんしぇいごめんなさいごめんなしゃい


 謝るために顔を上げると、老女先生はポカンとした顔のまま硬直していた。


 あれ?

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