第7話 アジトの片隅で研がれる牙

マイケルが盗賊の雑用係を命じられてから、彼の日常は生存闘争そのものに変わった。

夜明けと共に叩き起こされ、アジトの雑用をこなし、ナイフを握らされては獣の解体を手伝う。わずか五歳の子供にはあまりにも過酷な日々だった。


ある日、たきぎを運び終えて息を切らすマイケルに、ギルが声をかけた。その目は、普段とは違う、何かを見定めるような光を宿していた。


「小僧、いつまでもそんな雑用ばかりじゃ、ここでは生きていけねえぞ。悔しくないのか? 母さんたちが他の奴らになめられているのを見て」

「……悔しい」


小さな声だったが、その目には強い光が宿っていた。


「母さんとリリアを守れるなら、何でもする…!」


「そうか」

ギルは短く言うと、使い古された短い剣と、粗末な小弓を彼の前に置いた。


「なら、自分の身を守る術を覚えろ。遊びじゃねえ。泣き言を言ってもやめさせねえからな」

「はい!」


マイケルの声は緊張で上ずっていたが、その瞳は決意に燃えていた。



だが、マリアはマイケルが武器を手にすることに、激しく抵抗した。


「ギルさん、お願いです! この子に人殺しの道具を握らせるなど…!」

「マリアさん」


ギルの声は静かだが、有無を言わせぬ響きがあった。


「あんたの気持ちは痛いほどわかる。だがな、ここがどういう場所か、あんたが一番わかってるはずだ。俺だっていつまでお前たちを守れるか分からん。この子自身が牙を持たなければ、本当に危ない時、誰も守れねえんだぞ」


その冷たい現実に、マリアは唇をかみ締め、こみ上げる涙を堪えながら頷くしかなかった。


「……マイケルを、よろしくお願いします」


ギルの稽古は想像を絶するほど厳しかった。


「構えが甘い! 踏ん張れ!」「剣は体で振るんだ!」


怒声が飛ぶ。だが、マイケルは驚くべき集中力と、獣のような勘でそれに応えた。雑用で鍛えられた体は、年齢の割に強く、ギルが一度教えたことは瞬く間に自分のものにしていく。


「人を射るわけにはいかねえ。これからは、森で兎や鳥を仕留めて、動く的を射る練習だ。うまくいけば飯の足しにもなる」


ギルに連れられ、森に入る。獲物に気づかれぬよう息を殺して歩く方法を学び、彼は初めて弓を構えた。狙うは、木の実をついばむ一羽のキジ。

放たれた矢は、吸い込まれるようにその胸を貫いた。


「よし、見事だ!」


ギルは賞賛しながらも、マイケルの恐るべき才能に内心舌を巻いていた。



噂はすぐに他の盗賊たちの耳にも入った。


「おい、ギルの奴、あのガキにチャンバラごっこを教えてるらしいぜ」


最初はあざ笑っていた盗賊たちも、時折目にするマイケルの並外れた上達ぶりと、その目に宿る野生の光に、次第に言葉を失っていった。


「冗談じゃねえ…俺たちより筋がいいんじゃねえか…」


幼いながらも、獲物を狙う狼のような気配を漂わせるマイケルは、もはや単なる子供ではなかった。


二年という月日が、嵐のように過ぎ去った。

七歳になったマイケルの剣捌さばきは大人に引けを取らず、弓の腕前に至ってはアジトで右に出る者がいないほどに上達していた。

ある日の稽古の後、ギルは少し寂しそうに、だがどこか誇らしげに呟いた。


「もう、俺が教えることはそう多くねえな。だが忘れるな、マイケル。本当の戦いは稽古とは違う。そして…その力を何のために使うか、決して見誤るな」

「はい、ギル師匠…!絶対に忘れません!」


彼はもはや、か弱い子供ではない。大切な母と妹を守るために、その牙を研ぎ澄まし続ける、若き戦士だった。

マリアは、そんな息子の成長を誇らしく思う一方で、その鋭すぎる才能が、いつか血なまぐさい形で使われるのではないかという不安を常に抱えていた。


そして、その不安は現実のものとなろうとしていた。

アジトの頭領が、マイケルの並外れた成長に、とうとう気づいたのだ。

遠くからマイケルの動きを観察する頭領の口元に、不気味な笑みが浮かぶ。


「ほう…あの小僧、なかなか見所があるじゃねえか」


部下の一人にそうもらす頭領の視線は、まるで新しい「道具」を見つけ、その使い道を思案するかのような、冷たい光を帯びていた。

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