雪之助

おうめ

「倉庫の中」

死んでいるところを、誰にも見られてなくてよかった。そうしたら今頃きっと僕の葬式はどうするかとか話されてるところだ。

僕はスマホと財布を、サッとポッケの中に入れておいた。


「どうしようか、これ……」


僕が入っていたもの(乃ち死体である)が、梁からぶら下がっている。まじまじと自分を見つめるのは気持ち悪いし、放置しておいたら腐るし、どうしたものか。


「午前3時前、かあ……よし。」


僕はジャンプして死の吊革をちぎり落とし、死体を床に落とす。ドサッと音がして、少しぎょっとする。家族が起きないかな。大丈夫かな。


幸い、誰も起きる様子はなかった。誰も、僕に関心は寄せていなかった。僕はゆっくりと部屋のドアを開けて、21グラムだけ軽くなった自分を背負う。


はあ、はあと息を切らしながら、庭の大きな倉庫まで、ゆっくり運ぶ。あそこはもう長いこと開けていないし、鍵を僕の部屋の分からないところにしまってしまえばいい。殺人を犯したみたいな雰囲気が漂っているけれど、自分を殺したのは僕だから、気が楽だった。まあ、見つかったらそれこそ殺人よりも面倒なことになるけどね。


ギギギ………と錆のついた扉が開く。倉庫の中は本当にガラクタばかりだった。取っ手が破断した荷車、骨だけになった傘、画面が意味のわからない色になってしまっているブラウン管テレビ、とかとか。ここに置かれているものは、一生出番がなさそうだった。


「……うっわ」


奥の方まで行くと、綺麗な状態の中型動物の骸が落ちていた。きっと、迷い込んで出られなくなってしまったのだろう。丸まった状態で、壁に寄り添うように、骨だけになっていた。


「……」


僕はその隣に、自分を置いた。隣が自分になった骸は何も喋らないが、きっと生前の自分が求めていただけの役割を果たしているだろうと考えた。その骸が、僕にはなんの骸かも分からない。だけど、自分はもしかしたら分かるかもしれないという希望的観測の上だった。


女の子の部屋にある複数の人形のように、死体がふたつ並んだ。

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