父親と母親の役割



 私にとって、父親と母親は、まるで正反対の存在だった。


 父親は、怒る担当だった。特に幼い頃は、理不尽に怒られることが多かったように思う。私はただ、少し手こずっているだけなのに、まるで人として否定されるかのような叱られ方をした。


 その怒りには、時折「仕事で嫌なことがあった」という色がついていた。今思えば、父は感情のやり場を家庭に持ち込んでしまっていたのだろう。もちろん、それを理解できる年齢ではなかった私は、ただただ萎縮するばかりだった。


 一方、母親は包容力の人だった。


 怒るときはちゃんと怒る。でもその怒りには、必ずと言っていいほど「理由」があった。そして、怒ったあとに話す時間もくれた。何がいけなかったのか、次はどうすればいいのか、そうした「道しるべ」が母の言葉にはあった。


 だから私は、何気ない日常のことでも、母にはよく話した。学校でのこと、友だちとの会話、好きなテレビ番組。今でも変わらず、つい母に近況を話してしまう自分がいる。


 思えば、父も母も、きっと不器用なりに「親としての役割」を果たしていたのだと思う。父は厳しさを、母は優しさを。それが良いか悪いかは、きっと一言では言い切れない。


 ただ、私はあの頃を思い出すたびに、今の自分の感情の扱い方や、人との距離感のとり方に影響を与えていることを感じる。


 父の怒りがあったからこそ、私は「他人の怒り」に敏感になった。母の包容力があったからこそ、「誰かに優しくあること」の大切さを知った。


 今なら、あの二人が親としてくれた役割の意味が、少しだけ分かる気がする。

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