第8章:応答なき構文──制度が否定すらできなかった日

【節1】DAY 7|記録されなかった声


七日が過ぎた。

問いは出されたまま、応答はない。

裁くでもなく、認めるでもなく、

ただ、空気のように沈黙だけが続いていた。


けれど、それはただの“放置”ではなかった。

そこには確かに、記録があった。

言葉の形をしていなくても、

提出された紙の束が、静かに何かを語っていた。


支出の軌跡。

名義と行動のズレ。

誰が動かし、誰が沈黙したか。

それらの記録がつながるとき、

構造が姿を現した。


本来なら、答えるべきだった。

応答がなければ、制度の中で真偽は不確かになる。

しかし今回は違った。

答えがなかったこと自体が、“構文”になった。


制度は動かなかった。

そして、誰も否定しなかった。

否定がないということは、

ときに、それ以上の意味を持ってしまう。


今日、声は届かなかった。

でも、記録は残った。

それは、誰にも見えなかった構造の、

“存在だけが立ち上がった日”だった。

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