02. グッバイも言わずに
おれは
阪倉晴子が死んだその日のことを思いだすことはできない。
小学生のときに、だれにも秘密だからって、お互いのを見せ合ったのも思いだせる。おれは二十五点だった。晴子は三十五点だった。おれたちは分数の計算でつまづいていた。そのことも思いだせる。
晴子が「からだ」を「身体」と表記するのを好み、「心身」と表記をすることもあったのも思いだせる。小学生のときにキャッチボールをしていて、風が吹いている河川敷であったとはいえ、鋭く変化するナックルカーブを投げたことがあったのも思いだせる。
オークションを
だれにも秘密だからって、幼馴染のままなのに軽くキスをしたのも思いだせる。
阪倉晴子が死んだその日のことは思いだせない、ということにした日のことを、かすかに思いだせる。その日のことを思いだしたが最後、おれの記憶のなかで生きている阪倉晴子までもが、死んでしまうような気がするのだ。
おれが高校を卒業したあと、ニート生活を十年続けているということを、死んだ阪倉晴子は思いだせない。というか知らない。だって、高校生のときにいなくなっちゃったから。
グッバイも言わずに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。