第17話旅

零人とオーサは、雪枝を連れて東京発の新幹線に乗っていた。

人魚館館長の使者との会談は成功し、直接面会できる機会を手に入れることができた。

3人は人魚館がある広島県の瀬戸内海に向かっているところだった。

雪枝の弟のコネではあったが、新参者に過ぎない二人にとっては心強いフォロワーさんである。

繋がりは大切にして損はない。

キーパーソンになる可能性がある人物には友好的に接しておくのが零人のポリシーなのだ。

新幹線内では三人でお弁当を食べた。

零人が好きなカニを使ったカニ尽くし弁当で、駅で誰よりも先に購入していた。

芳醇なカニのエキスこそが零人の活力剤である。

一口カニ肉を口にする度に長旅の疲れは吹き飛んでしまう。

そして車窓から見えるこの絶景だ。

瀬戸内海は宝石にも例えられ、海外でも人気が高い。


「オーサ、瀬戸内海は始めてか?」


零人は最愛の妻に日本一美しいと思っている海について聞いてみた。

零人は北海道の寒冷地に多く住んでいたため、瀬戸内海の夏のイメージとは程遠い。

それはオーサもだったが、彼女は私に興味津々な反応を見せてきた。


「ネットで映像を見たことがあるけれど、実際に見たのは初めて。青くて透き通った海…なんて綺麗なの」


彼女も瀬戸内には大満足のようだ。

目を輝かせて窓から写真を撮っている。

零人も瀬戸内海はあまり見たことがなかったので新鮮だ。

その二人の横で、雪枝はノートにメモをしていた。

瀬戸内海の絶景をチラチラ見ながらペンで何かを書いていた。

今回の仲介役でもある彼女は、色々と準備があるのだろう。

雪枝の弟は柿原家を出奔して長いが、確かな絆は残っている。

彼の主が館長で、こうして話をしに行くのだから不思議なものだ。

列車はもうそろそろ広島駅に着く。

東京とはまた違う歴史ある街だ。

零人ははしゃいでいるオーサや真剣に書き物をしている雪枝の横で広島の景色に惹かれていた。

瀬戸内海の街にはどんなものがあるのだろう。

想いを巡らせると胸に熱いものが込み上げてくる。

広島駅のホームに降りたって零人が感じたのは関東や関西とは違う空気だった。

オーサも雪枝も中国地方一の雄都市を観光したくてウズウズしているようだ。

長旅さえも気晴らしには最高のイベントだ。

ビッグイベントの連続で最近はやつれたようにも見える。

オーサもスウェーデンから日本にやってきてバタバタとずいぶん疲れたはずだ。

慰安旅行の意味でも良い息抜きになるだろう。 広島観光は対談が終わってからゆっくりとやるにして、人魚館は宿泊もできるということで3人ぶんの部屋を取っていた。

ここでゆっくりと羽を伸ばしてもらいたいという館長のおもてなしだった。

広島県の食材を使った豪華な食事を振る舞ってくれるという話だ。

オーサには初めてのことばかりだろう。

零人はたくさんのお礼を妻にしてあげたくて楽しみにしていた。

そんなことを考えていると、駅の外には迎えの来るが来ていた。

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氷結の妖魔 五条義秋 @gojonovel19345

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