第12話氷のロマンス

零人とオーサの結婚披露宴は想像以上の大盛況で幕を閉じた。

親族全員が彼女の美貌と聡明さを褒め称えていた。

当主の祖父母からもお墨付きをいただいて、正式に夫婦となることが本決まりになったのだ。

熱気と気迫に疲れきった私たちは都内に予約してあった高級ホテルの一室に辿り着いた。

二人きりでお酒の飲み直しをしたかったし、語り合いたかった。

その他のことも…

とにかく今はオーサと二人きりになりたかったのだ。

それはオーサも同じだった。

私はオーサの手を取って部屋の鍵を開けた。

オーサは体をビクッとさせて固まる。


「そんなに固まらなくても大丈夫だよ、オーサ。さあ、飲み直そうか」


私は彼女を部屋に招き入れる。

高そうな寝具なテーブルが配置された部屋は広く、アロマの濃厚な香りが漂ってくる。

大きな冷蔵庫には高級ワインが納められていた。

窓からは東京の夜景が一望できた。

しかも夜空には満天の星が輝いている。

ムードは完璧。

これならオーサもリラックスしてくれるだろう。


「オーサ、そこに座って。まずは水でも飲んでさ。グラス持ってくるから」


私はオーサをイスに座らせると、グラスを取って水を汲んだ。

その間オーサは左手を心臓に当ててゆっくり深呼吸していた。

相当緊張しているな。


「はい、お水だよ」


私はオーサに水が入ったコップを差し出した。


「ありがとう、零人」


オーサは例を言って水を喉に流し込む。

深く深呼吸をして一息つく。

部屋に漂う香りを吸収して落ち着けたようだ。


「お酒持ってくるね」


私は冷えたワインボトルとチーズを取り出してグラスに注ぐ。

コルクを抜くと、ワインの贅沢な香りが充満していく。

アロマの香りも相まって濃厚な香りになって部屋を包む。

もう一つ心地良いのは、オーサの香水の香りだ。

夜を思わせる洗練された香りも加わり、何とも言えない怪しさを部屋に演出させる。


「お待たせ、ワインとチーズで乾杯しよう」


豊満な香りの中でワインのチーズをテーブルに運び、グラスを手に取る。


「ありがとう、何だか胸が苦しくなるような濃い香りね」


オーサは香りを楽しみながら微笑むとワイングラスを手に取った。


「「乾杯!」」


私とオーサはグラスをカチンッ!と鳴らすとワインを口に含む。

このワインは本当に美味しい。

爽快な気分になれる。

オーサも満足してソムリエのように香りを楽しんでいた。

チーズの方はどうだろうか。

包装紙を取って口に入れてみると、これも芳醇な香りと濃厚な風味がたまらなく美味しい。

ワインと合う良いチーズだ。

オーサも私のようにチーズとワインに大満足のようだ。


「ところで、話すことって、何?」


オーサが真剣な表情で切り出した。

私はワイングラスを静かに置くと、彼女に向き直って、手を取った。

オーサの白い手は柔らかくて繊細だった。


「オーサ、改めて私と結婚してくれてありがとう。私が初めて会った時から君のことだけを想ってきた。絶対幸せにする」


私が強い意思でオーサへの想いを告白すると、彼女は手に力を込めて握り返してきた。


「零人、零人!私もずっとこうしたかった。ありがとう」


オーサは零人の真っ直ぐな意思を感じ取って、全力で私を受け入れようとしていた。

思えばスウェーデンの雪の森で出会って以来、私の氷の心を奪ってきた北欧の妖精、氷結の妖魔・オーサ・ルントグレーン。

雪平零人の最愛の妻となることで、その長年の悲願は達成される。

私はオーサの全てを手に入れたかった。


私はワインをもう一度飲んで、酔いの勢いのままにオーサの肩を掴んだ。


「服を、脱がして良いかな?」


私はゆっくりオーサに尋ねた。


「うん、良いよ。優しくしてね」


彼女はブルブル肩を震わせていたが、私が優しく上着のシャツのボタンを外していくと、落ち着きを取り戻した。

雪のような肌が露になり、神秘的な幻想世界が眼前に広がる。


「オーサ、綺麗だよ」


「れ、零人ぉ…」


私はオーサと優しく、肌を重ねた。

東京の夜はまだまだ始まったばかりだ。

オーサの青く澄んだ瞳からは、雪解け水のような、泉のような美しい涙が頬を伝って流れ落ちていた。



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