今日も恥ずかしいラブコメ

+プッチ

ラブパワーは君のぬくもり

「……私は魔法少女。ほんとは秘密にするつもりだったけど……蒼真そうまくんには、全部話しておかないといけないと思ったの」


 日向陽菜ひなたひなは真剣な表情で、ベッドに寝かされている蒼真を見下ろしていた。額には冷えピタ、隣の机には薬と水が置かれている。


「今、あなたは悪の組織“オジャマー”によって呪われているわ。……ごめんね、私のせいなの。私の力の源が蒼真くんだから……当然、狙われてしまうわけで……」


 陽菜は目を伏せ、申し訳なさそうに言葉を続ける。


「私は、定期的に蒼真くんとイチャイチャすることでラブパワーを得て、その力で町の平和を守っているの。……黙っていてごめんなさい」


「いや……イイんだ陽菜……僕にとって陽菜は……最高の彼女だ……」


 蒼真は熱にうなされながらも、苦しそうに微笑んでそう答えた。


「風邪で休んでるって聞いて……しばらく気づかなかったの。

 ……今、治すわ」


 陽菜は小さく深呼吸をし、両手を掲げる。


 そして――


「聖なる乙女の祈りよ、清き愛の光よ――

 この世界にたったひとりの大切な人を癒やすため、

 いまこそその力を顕現せよ……っ!」


 陽菜は真っ赤な顔で手を掲げる。


「ラブキュア・ピュアリィ・インフィニティ・スウィートヒールっっ!!」


 部屋に響き渡る、羞恥心を限界突破した呪文。

 なのに彼は、そんな陽菜をまっすぐ見つめて――うっすら微笑んでいた。


「……よかった! これで呪いは解けたわ。私は、あなたを愛している――でも、そのせいであなたが狙われるのは本末転倒。だから……私、魔法少女をやめます!」


 言い切ったあと、陽菜は肩で息をしていた。


 数秒の沈黙のあと。


「いや~最高だった! 今回もクオリティ高かったよ、陽菜!」

 蒼真が嬉しそうに拍手を送る。


「……っっ!! も、もうっ……今度こそ、次は絶対やらない!!」

 陽菜は顔を真っ赤にしながら、ソファのクッションを蒼真にぶん投げた。

「なによ、“オジャマー”って! 名前のセンスどうかしてるし! あと、呪文長すぎ! 落ちもガバガバすぎ!! 蒼真キモすぎ!!!!」


 連続ツッコミモードに突入する陽菜。が、蒼真は「まぁまぁ」と笑いながら頭をかき、「来週、デート行こうか。水族館、どう?」と言ってきた。


 陽菜は少しむくれながら、チラリと蒼真を横目で見た。


「……変な要求しない?」


「えーっと……軽いのをできれば……」

 蒼真が耳元で何かをこそこそと囁く。


「~~~っっっっ!! あ、あんたって人は……! この変態!!」

 陽菜は耳まで真っ赤にして、目に涙を浮かべながら叫んだ。

「もう知らないっ!!」


「ごめんごめん! なし、今のナシ! 普通に、ちゃんと水族館行こ、な?」

 蒼真が両手を上げて謝ると、陽菜はしばらく黙ってから――


「……どれくらい?」


「え?」


「どれくらい入れればいいの?」


 蒼真は少し悩んで、でも誠実に答えようとする。

「……それはもうできる限り」


「全部おごりは当然として、特盛パフェとぬいぐるみも追加ね!!」


「はいっ!!」


 蒼真のことが大大大好きな陽菜は、またもや振り回された。

 呆れて、怒って、恥ずかしくて、頭を抱えたくなるくらいだったのに

 ―――結局、最後には笑ってしまう。結局、いつも通り。


 「ぜっっったい次はやらないから! ……いやほんとに!!」


 そう叫びながらも、次のデートの約束にこっそりスカート選びしてる自分がいて、もうやだ。 ……ほんとやだ。ほんとやだし、ほんと好き。




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