nap
昨日の女の子の笑顔が忘れられない。玄関から家の中に入って行くとき、どんな気持ちだっただろうか。たまたま産まれが良かっただけの自分と彼女は何が違うのだろうか。悩めば悩むほど答えは遠ざかっていき、自分が今本当にいるべき場所で、やるべきことをやれているだろうかと自問自答した。
窓からは光が差し、自分の気持ちとは正反対に外は晴れ渡っていた。あまりの眩しさに目を逸らした。
一呼吸置き、クローゼットを開け、ハンガーに掛かっているバブアーのオイルジャケットを取り出した。ポケットの中にはパケに入ったピンク色の錠剤が入っていた。それを少し眺め、飴のように口の中に放り込んだ。ジリジリと脂汗が出始め、高揚感に包まれていくのを感じた。
ベットに体を投げ出し、目を瞑ると快楽が全身を包み込んだ。そのまま昼寝をしようと目をつぶり、快楽の海を漂っていると不意にスマホに着信があった。
スマホの画面には「南凛花」と表示されていた。
「もしもし?」
「あ、ダウくん?」
「うん。どうしたの」
「今日、夜に渋谷でDJやるんだけれど、よかったらダウくんも客演として出ない?」
「え、いきなり出ていいの? まだライブの経験ないけれど……」
「箱のオーナーには話をしてあるから大丈夫だよ。肩の力を抜いて遊びに来る感じで来てよ」
「なるほど。うーん。わかった」
「じゃあ今日の十四時に吉祥寺集合ね」と彼女は言い、一方的に決めてしまった。
嵐のように決まった初ライブに心が躍りながらも強い恐怖を感じた。その後、プーマのセットアップジャージに着替え、プーマスウェードを履いた。
玄関を出ると、自宅の庭に一輪の“綴化した白い彼岸花”が儚げに咲いていた。
レミングの王 沼下 百敗 @numashitahakube
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