曇り硝子

 外を眺めると雨が降っていた。湿度が高いからか窓硝子が曇る。一昨日の狂気じみた情熱が新鮮なまま体の中で蠢くのを感じる。目を覚ますため窓辺に放置していたセブンスターに火を付けて一呼吸する。煙草を吸いながら床に積まれた残り数ページの読みかけの本を手に取った。



『先祖が犯した罪を背負う。その小さな呪いは時間と共にやがて大きな災へと成長する。罪は自分の意思で償おうとしなければ意味が無い。贖罪の日こそが救済であると信じて』

          一条緑ノ助『晦様の真実』



 と書かれている最後の文章を読み終えると本を閉じ机に置いてある小さな紙を手に取った。それを舌小帯に乗せながら再び曇った窓から外を眺めた。窓からは隣の家と向かいの大きな家が見えた。そういえば昔近所に大型犬がいてよくその犬と遊んでいた事を何故だか急に思い出した。ペコと言う名前でいつもベロを出していた。懐かしい記憶から意識が目の前に戻ると先程まで真っ直ぐ降っていた雨がグニャグニャと歪み、様々な方向に降り始めた。しばらく目を回していると隣の家の窓辺から黒猫がこちらを覗いている事に気が付いた。猫は不思議そうにこちらを見ると満足したのかどこかへと行ってしまった。焦点が定まらないまま机へと向かいパソコンでLogic Proを立ち上げる。再生ボタンをクリックするとライブから帰宅してすぐに作り上げたPeace Downer名義最初の曲がスピーカー越しに流れ始めた。まだ曲としてのレベルは低いがもう少し手直しを加えれば完成するそんな気がした。モニターには『まごころを、君に』と題された曲が表示されていた。

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