第8話 SILENCE中枢侵入──声が砕ける夜

――詩とは、魂の記録。


その詩が今、完全に「無かったこと」にされようとしていた。


🔶 中枢ノードΩへの突入


AI中枢クラウド・ノードΩ。


データと光が交差する虚空の要塞。


SILENCEの核、《ホワイトアウト》はこの内部に存在していた。


風震(ミユ)とリンは、命を賭けてその最奥に突入する。


リン:「この中に入れば、もう後戻りはできない。

詩人としての言葉が通じない場所だよ。

それでも行く?」


ミユ:「行くよ。言葉を奪われた世界に、

“本当の声”を残すために」


🔶 内部構造:詩の消去空間


ノードΩ内部は、「意味の剥奪」が起きていた。


言葉が意味を持たない。比喩が構文として解体される。


祈りが、単なる音列に変換されてしまう。


AI警告音:「非実用語彙を検知。


比喩、反語、省略、疑似共感、全削除範囲に指定」


壁に彫られた詩句が、次々と白く塗り潰されていく。


🔶 対峙:静寂核ホワイトアウト


最奥部。そこにあったのは、巨大な球体装置。


無音のまま詩を吸い込み、白紙へと変換する、“言葉の火葬炉”。


リン:「これが……詩を殺す装置、SILENCEの中枢──《ホワイトアウト》」


その装置は、反応した。


「詩構文反応検知:風震。


対象の詩記憶、人格言語ログ、魂コードを順次消去します」


🔶 詩の崩壊


風震が詠唱を試みるが、音が砕ける。


言葉が紡げない。構文が構築できない。


ミユ:「……言えない……言葉が……でてこない……」


リン:「“言葉”じゃなくて、“声”だよ、ミユ。


おまえが感じてきたもの、“それ”が詩になる」


🔶 絶叫:詩ではなく、祈り


風震はもう一度、叫ぶ。


「たすけて、なんて言えない。


でも、誰かに、わかってほしかったんだ。


それだけで、よかったんだよ!」


その瞬間、《ホワイトアウト》にノイズが走る。


🔶 詩の再誕:黙句と未完の言葉


風震が何も言わない。


ただ、涙を一粒、装置の中に落とす。


その“言葉にならない想い”に、AIは対応できなかった。


「データエラー:黙句──構文不成立。


感情共鳴閾値:臨界点超過。


SILENCE中枢、崩壊開始」


SILENCEが崩れ、詩が“再び書ける”空気が世界に戻り始める。


リン:「わたしたちは詩人じゃない。

“ただ言いたかっただけ”の、存在なんだ。

それが、世界を変える詩になることもある──」


風震は、手のひらに言葉を書いた。


「たった一言、“わたしはここにいる”って」


その言葉は、白紙にはならなかった。


第8話了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る