(28)課題の出来

 ヨウスケの課題は一応完成した。姉のアドバイス、というより添削を受け、一部は姉がタイピングしたりして、「京阪沿線の景色~大津から大阪湾まで」というタイトルで、見聞きした景色や情報を、一応文芸作品的な文体で表したものになった。今時なので、当日に要所ごとに自分のスマートホンで撮った写真も入れて、多少のレイアウトも施したものを印刷し、高校の登校日に持っていき、顧問の先生や文芸部の部員に読んでもらった。同学年からは、

 

 「へえ、ずいぶん気張って書いたやん」

 

と、誉め言葉と取れなくもない評ももらったが、先輩や顧問の先生からは、「鉄道乗り歩きやね」と、やはり紀行文の扱いを受けた。「ここら辺の表現はええな」と顧問の先生から指摘された部分は、実は姉のアズサの代筆、というより、「ウチにも書かせて」と、半ば無理やり追加された部分だったりしたときは、ちょっとヒヤッとしたが、逆に、姉には文才があるのか、と感心もした。

 

 姉は、前の日に父と弟と富士山に行ったときと同じ夜行バスで、山梨に戻っていた。父は割と身長があるので、夜行バスに一晩乗ると腰が痛いと言うが、それほど大柄でないアズサは、安くて快適、と、利用することが多かった。登校日の夜、姉にスマートホンのテレビ電話で、文芸部の課題のことを報告した。

 

 「やっぱり、紀行文やて」

 

 「そやろな。あれだけ乗り鉄したら、それ以外のもの書かれへんて」

 

 「お姉ちゃんの書いたとこ、ほめられよったで」

 

 「ハハハ、なんか、夏休みの絵日記を親に描いてもろたみたいやな」

 

 「お姉ちゃん、文章うまいねんな」

 

 「ま、文芸部に三年おったからな」

 

 「そういうところに就職するん?」

 

 「まだ全然分からへんよ。ウチ、まだ一年生の夏休みやで」

 

 「せやな」

 

 ヨウスケの夏休みは八月末で終わった。この高校では、特に夏休みの宿題らしい宿題もなく、ヨウスケは文芸部の課題を、顧問や先輩からの指摘を反映して手直しして、提出した。ヨウスケの生活は、夏休み前、いや中学生のころからとほとんど変化がなかったが、一つだけ変わった点は、夏休みの間に、疏水分線に何回か行ったことであった。

 

 初めて疏水分線に行ったときとは異なり、数度訪ねると、疏水周囲のいろいろな細かい景色や、それが流れている流域、前後のトンネルや発電所、坂を上下するインクライン跡などの施設にも目が届き、ヨウスケはだいぶ「疏水通」になっていた。別段、疏水に詳しくなっても、高校の授業や成績には直接関係ないのかもしれないが、それでも、これまでアニメ関連にしか興味がなかったのに比べると、少し自分の世界が広がったように感じて満足感も得ていた。

 

 「別に、疏水を研究しようとは思えへんけど」

 

と思いながら、ヨウスケの心の中では、疏水、それも疏水分線の景色とそこを流れる水流が、自分の気持ちを一本にまとめる流れのように感じられていた。

 

 「疏水が聖地になるアニメでもできひんかな」

 

 結局、それもまたアニメにはつながるのだが、疏水の存在は、確実にヨウスケの成長の柱になっていた。

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