約束
Kei
約束
深夜。寝ていた俺は電話のコールで起こされた。見知らぬ番号だったが、無視しても切れる気配がない。仕方なく出てみると病院からだった。
もしもし?
はい… 圭一は私です。
…え? なん… 本当ですか?
まさか、そんな…
姉と義兄、姪が病院に運ばれてきたというのだ。
三人とも意識不明だ、と。夜の高速を、逆走してきたトラックに追突されたらしい。姉夫婦のミニバンはめちゃくちゃに潰れていたという。
事故の衝撃で姉と義兄のスマホは壊れてしまっていた。免許証やカード類から身元を特定できたものの、義兄の家族はすぐには来られないとのことだそうで、そして俺に連絡がきたのだった。
義兄は親きょうだいと不仲であった。しかしそれでも、肉親が事故に遭ったのに駆けつけないなんて俺には信じられなかった。
俺と姉は仲が良かった。お互いがこの世でたった一人の肉親だった。
俺たちは早くに両親を亡くしており、二人で支え合って生きてきたのだ。
病院に着いて受付で事情を話すと、すぐに医師と看護師が現れた。
二人ともうつむいている。
まさか…
その「まさか」だった。
姉も義兄も、既に亡くなっていた。
両親も事故だった。俺は姉までも事故で亡くしてしまったのだ。
あの、姪は… いっしょに運ばれた女の子で…
…
そうですか…
姪の美幸は一命を取り留めていた。しかし、いつ意識が戻るかはわからないとのことだった。一生このままの可能性もある、と…
「万が一、私たちに何かあれば、この子を頼むわね。約束よ」
姉は常々、俺にそう言っていた。
美幸は俺たち姉弟に新たに加わった肉親だ。姉は本当にあの子を大切にしていた。家族と絶縁状態だった義兄も同様に、誰よりも可愛がっていた。
それから俺は、可能な限りの時間、病院に通った。
仕事の前も、後も。そして休日は一日中、美幸に付き添った。
そうした日々が三ヶ月続いた。
金曜日の仕事の後、美幸の病室を訪れた俺は、丸椅子に座ったままベッドに伏して寝てしまっていた。
窓から差し込む朝日の暖かさを感じ、目を覚ますと、美幸がこちらを見ていた。
「おじさんおはよう!久しぶりっ」
「ここ、どこだろう… パパとママ、知らない?」
俺はあふれる涙をそのままに美幸を抱きしめた。
「なんで泣いとるの?? そんなにぎゅーしたら痛いってぇ~」
俺は全力でこの子を守り、育てようと決心した。
姉との約束を果たすんだ。
~20年後~
「おい美幸、いいかげん働かんかいっ!いつまでこども部屋でゲームしてるんだっ!」
「えー圭ちんそう言うけどさー美味しめの求人ないんだよねー」
「お…美味しめ!?」
「やっぱ田舎じゃダメなんかナ〜。上京しよっカナぁ?」
「また安易なことを… 東京に染まったらロクな人間にならないぞっ!」
「じゃあここでユーチューバーするかなぁ…カワイめの機材揃えたいからお金貸してっ」
「か…カワイめ!? お前、自分をいくつだと思ってるんだっ!」
「んも~うるさいナぁ…」
約束 Kei @Keitlyn
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