エピローグ
それから二十年の月日が流れた。
エルグランド領は、もはやかつての辺境領地ではなかった。王国一の穀倉地帯であり、最先端の技術と知識が集まる学術都市、そして王国最大の商業都市へと発展していた。
街には高い建物が立ち並び(もちろん、この世界の技術レベルに合わせた石造りや木造だが)、広々とした道路には多くの馬車が行き交う。清潔な水が供給され、衛生管理も徹底されているため、伝染病は過去のものとなった。
領地内に設立された学術院には、王国中、いや、他国からも学生が集まり、新しい知識や技術を熱心に学んでいる。農業、医学、工学、商学…様々な分野で、私の前世知識を基にした学問が発展していた。
私ももう若くはない。かつての艶やかな黒髪には白いものが混じり始め、目元には優しい皺が刻まれている。しかし、その瞳の輝きは増すばかりだ。
私は今も、このエルグランド領の公爵として、領民たちの生活を見守り、改革の指揮を執っている。かつてのように現場の最前線に立つことは減ったが、私の言葉にはかつて以上の重みと、そして深い愛情が宿るようになった。
「おばあ様、今日の授業は麦の病気についてでした!」
学術院に通う孫が、目を輝かせて話を聞かせに来る。私の娘や息子たち(もちろん、私が自らの意思で選んだ伴侶との間に生まれた子供たちだ)も、領地運営や学術研究に携わり、私の志を継いでくれている。
私の傍らには、二十年前、私と共に領地改革を始めたセバスチャン…ではない。彼は十年前に穏やかに息を引き取った。今は、その息子であるセバスチャン・ジュニアが、新しい執事として私を支えてくれている。そして、かつてのエール村の村長も、引退して今は孫たちの成長を楽しみにしている。
領地の図書館には、私のこれまでの改革や発見を記した書物が収められている。将来、この世界の誰かが、私の知識をさらに発展させてくれることを願って。
かつて私を追放した王都のことなど、本当に遠い過去の出来事となった。王家は代替わりし、新しい国王は私の功績を尊敬し、エルグランド領との友好な関係を維持している。第二王子アルフレッド様とエミリアさんの行方を知る者は、もはやほとんどいない。彼らは、この世界の歴史の片隅にひっそりと消えていった。
私は、公爵邸の庭で、満開になった花々を眺める。この花も、私が前世の知識で品種改良したものだ。
美しい花々、豊かな収穫、人々の笑顔、そして家族や友人に囲まれた穏やかな日々。
これが、かつて破滅する運命だった悪役令嬢、公爵令嬢イリス・エルグランドが、自らの手で掴み取った、最高のハッピーエンドだ。
私の人生は、誰かに与えられたものではない。私が選び、私が作り上げたものだ。
そして、この物語は、ここで美しく幕を閉じる。
婚約破棄された追放令嬢ですが、最強の内政チートで理想郷を築き上げます 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi
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