第9話
エルグランド領の繁栄は止まるところを知らなかった。農業技術はさらに進歩し、新たな作物の開発も成功した。例えば、収穫量が多く、加工もしやすい「魔法の芋」(前世のジャガイモを改良したもの)は、領民の食料安定供給に貢献するだけでなく、加工品(ポテトチップスやフライドポテト風のものなど)として新たな交易品となった。
商業もますます活発になり、エルグランド領の中心都市は、王都に匹敵するほどの賑わいを見せるようになった。周辺諸国からも商人が訪れ、文化交流も盛んになった。
私は教育にも力を入れた。領地内に学校を増やし、子供だけでなく大人も学べる場を設けた。読み書き計算だけでなく、衛生や農業の新しい知識、簡単な工学や商学なども教えた。知識は力になる。領民一人ひとりが賢くなることで、領地全体がさらに発展していくと信じていたからだ。
医療も同様だ。簡単な診療所を設け、基本的な手当や衛生的な処置を教えた。薬草に関する知識も体系化し、より効果的な治療法を探求した。
(こうして、地道に知識を広め、技術を磨いていくことが、この世界の底上げに繋がるんだわ)
私が目指しているのは、単にエルグランド領を豊かにすることだけではない。私の知識と経験が、この世界全体の発展に貢献できれば、それは素晴らしいことだと思った。
私の評判は王国中に轟き、ついには他国からも私の改革について学びたいと視察団が訪れるようになった。彼らはエルグランド領の発展ぶりに驚き、私の指導を仰いだ。私は惜しみなく知識を共有した。隠す必要はない。私の知識は、私一人のものではなく、皆の幸福のために使うべきものだからだ。
王家も、もはや私を王都に呼び戻そうとはしなかった。代わりに、エルグランド領に特別な自治権を与え、王国の中の特別な存在として認めた。これは、私が望んでいた「誰にも、何にも縛られない」状態を、王国が公式に保証してくれたことを意味する。
父である公爵は、私の活躍を喜びながら、穏やかな晩年を過ごしていた。セバスチャンをはじめとする領地のスタッフも、私の右腕として、領地運営を支えてくれている。
かつて、私は一冊の小説の中の、破滅する運命の「悪役令嬢」だった。婚約者に裏切られ、社交界から追放されるだけの存在だった。
しかし、前世の記憶という偶然のギフトによって、私は運命を書き換えるチャンスを得た。そして、そのチャンスを最大限に活かし、自分の意思で、自分の手で、全く新しい未来を築き上げた。
私の人生は、もはや誰かの物語の脇役ではない。私が主人公の、素晴らしい物語だ。
このエルグランド領という舞台で、私はこれからも私が信じる道を歩んでいく。知識を広め、人々を幸福にし、この世界をより良い場所にするために。
私の「悪役令嬢」としての物語は、あの婚約破棄の場で終わった。
そして、公爵令嬢イリス・エルグランドとしての、新たな、そして真の物語が、今、ここで輝きを放っているのだ。
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