第6話

 隣領の疫病収束に貢献したことで、私の名はエルグランド領だけでなく、周辺の貴族たちの間でも知られるようになった。「疫病を鎮めた公爵令嬢」として、私の評価は一変したのだ。

 かつて私を「悪女」と呼び、蔑んだ王都の貴族たちからも、驚きの声が漏れ伝わってくるようになった。

「まさか、あのイリス殿が…」「辺境でそのような功績を…」

 彼らの驚きや困惑を想像すると、少しだけ愉快な気分になる。私が選んだ道は、間違っていなかった。

 隣領との関係も改善された。侯爵は私に深く感謝し、エルグランド領との間に新たな交易路を開くことを提案してきた。これは、私の領地の商業を発展させる絶好の機会だ。

 私は早速、セバスチャンと協力して、新しい交易路の整備計画を立てた。道の舗装、橋の架け替え、そして交易品として何が売れるかを考えた。

(我が領地で豊富に生産できるもの…そう! 麦だ!)

 農業改革のおかげで、エルグランド領の麦の収穫量は格段に増えた。これをただ売るだけでなく、付加価値をつけて販売することを思いついた。

「セバスチャン。製粉所を建設しましょう。そして、質の良い小麦粉を生産し、隣領や他の地域に販売するのです」

 この世界にも製粉所は存在するが、その技術は原始的だ。私は前世の知識で得た、より効率的な水車を使った製粉所の構造を考え出した。

 さらに、小麦粉を使った新しい食品の開発にも取り組んだ。

「パンの種類を増やしましょう! 今は硬くて日持ちするパンが主流ですが、もっと柔らかくて美味しいパンを作れば、きっと人気が出ますわ」

 私はパン作りの経験がある領民を集め、酵母の発酵方法や、様々な材料(この世界にあるもので代用)を使ったパンのレシピを教えた。バターや卵をたっぷり使った菓子パン、チーズを練り込んだ惣菜パンなど、現代では当たり前のパンも、この世界では革命的だ。

 最初は「こんな柔らかいパン、日持ちしないじゃないか」と懐疑的な意見もあったが、試しに焼いてみると、その美味しさに皆が驚いた。

「なんだ、これは! 今までのパンとは全然違う!」

「ふわふわで、甘いぞ!」

 評判はあっという間に広まり、エルグランド領で作られるパンは新たな名産品となった。交易路を通じて、隣領やさらに遠くの街からも買い求められるようになったのだ。

 製粉所の建設とパンの販売で、領地内に新たな雇用が生まれた。農閑期でも仕事があるため、領民たちの生活は安定し、収入も増えた。

 商業が活発になったことで、街には活気が戻ってきた。新しい店ができ、他の地域から商人も集まるようになった。税収も増加し、私はその資金をさらに領地改革に回すことができるようになった。学校の拡充、衛生施設の増設、道路の整備など、インフラ投資を積極的に行った。

 領民たちの表情は、かつてのような沈鬱さはなくなり、明るく、希望に満ちている。子供たちの笑い声が響き渡り、街全体が生き生きとしていた。

(これが、私の理想郷…)

 公爵令嬢としての立場や社交界の義務から解放され、自分の手で築き上げたこの場所。かつて私が「悪女」として追放される運命だった世界で、私は全く新しい価値観と方法で、自分の居場所と幸福を掴み取ったのだ。

 王都からの手紙には、私の活躍を称賛する言葉が記されるようになった。かつて私を断罪した第二王子アルフレッド様や、その隣にいたエミリアさんのことは、もはや遠い記憶の彼方に霞んでいる。彼らが今どうしているのか、知る由もないし、知りたいとも思わない。

 私の物語は、もう彼らとは関係のないところで、力強く、そして華やかに紡がれているのだから。

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