十四話 魔女、狩人に出会う 其の拾肆

 双子であり、姉妹であり、そして、今は、宿敵であった。


 橙華トウカに残された弾丸は残り二発。

 白華シロハが【因果の因子】を使えるのも残り二回。


 その手札をお互いに相手に知られてはいないが、既に限界が近いことを2人は感じていた。


 対話は既に不可能、譲れない物をその手に載せて、2人の姉妹は自分達の因縁に決着を付けるために。


 吹いていた風が止んだ瞬間、彼女達は動き出す。


 ワンドを破壊された白華シロハであったが、【因果の因子】の力は完全に体に馴染んでおり、凡ゆる因果の結果を引き出せるようになっている。


 だからこそ、白華シロハが最初の一手を自ら打った。


 一度目の【因子】の使用、それは橙華トウカに向けて巨大な岩を放った。無から有を生み出し放たれたそれは橙華トウカの虚を突くには充分であり、彼女はそれを避けることは出来ず、【狩人の起源プレデター・オリジン】の引き金に指を置いた。


 そして、その引き金を引いた瞬間、【狩人の起源プレデター・オリジン】の長い銃口が突然、弾けた。


「!?」


 白華シロハは既に、二度目の【因子】を使用していた。


 使用して引き出した結果は、橙華トウカが【狩人の起源プレデター・オリジン】の引き金を引いた瞬間に、それが砕け散ること。


 その結果を引き出し、弾丸の一発と、それを放つための得物を破壊すると、巨大な岩が橙華トウカの体へと容赦無くぶつけられる。


「ぐ、はぁ!!!!」


 岩石は直撃すると、【魔力】で覆えきれなかった橙華トウカの体を、物理的に砕き、先程撃ち抜かれた肋以外の幾つかの骨を軋ませる。


 指を動かす。

 痛い。


 息をする。

 苦しい。


 でも、それでも。

 橙華トウカは前を向く。


 痛みが自分を奮い立たせろと追い打ちをかける様に何度も何度も、体に電撃を走らせる。


 何故、そこまでして、白華シロハと対峙するのか。


 それは橙華トウカが妹で自分だけが、彼女を止めれると想ったから。


 そして、彼女自身が、自分を【狩人】であると定義してるいるから。


 【狩人】が獲物から目を逸らすなど、断じてなく、その目標を達成するためであれば、凡ゆる物を投げ捨てながら、命を賭ける。


「姉! ちゃぁぁぁぁん!!!!」


 橙華トウカは既に尽きる寸前の【魔力】を拳にだけ込めると、白華シロハが放った岩石へと拳を打つけた。


 "ドゴン"という音共に橙華トウカは現れると血塗れになりながらも白華シロハにだけ、その視線の全てを注いだ。


橙華トウカァァァァァァァァ!!!!」


 それは叫びなどではなく、咆哮と呼ぶのが正しい程の大声を響き渡らせる。そして、橙華トウカ目掛けて、白華シロハは最後の一撃を放つために自分の腕で【魔力】の光弾を作り出す。


 橙華トウカの持つ得物は既になく、最後の一発を放つことは出来なくなっている。


 だが、だからと言って、橙華トウカは止まらない。


 最後の一発の弾丸を握りしめ、白華シロハに向かって、疾走する。


 一方、白華シロハの生み出す光弾が徐々に形を作られていた。


 それは今にでも放たれる直前であり、どちらが先に、相手の一歩先に行くか、それによって、勝敗が決まる。


「死ね! 橙華トウカ!!!! 私の心から、消えてなくなれ!!!!」


 先を行ったのは姉である白華シロハ


 【因果の因子】を生み出した者が、【時制の因子】を宿す者を殺す。


 その結果が目の前に広がろうとした。


 それを前にして、橙華トウカの脳内に、三年間、自分を育ててくれた祖父、アルベールの言葉が過ぎる。


橙華トウカ、お前は【狩人】だ。どんな時でも、獲物から目を離すな。それと、何があっても自分の手札カードは全て見せるな。最後の最後まで、隠し通せ。それが出来ないなら、【狩人】には成れない。いいか? 【狩り】ってのは、獲物との化かし合いだ。騙し切って、ナンボだと思え」


 橙華トウカは既に、切り札ジョーカーは切っていた。


 ただ、手札カードは全て


時間制御タイム・ルーラー減速ディセレーション!!!!」


 最後に残った【魔力】を白華シロハが光弾を放った瞬間に、使い切る。


 それはこの世界の時間の流れを1/100000の速度に減速させる事が可能であり、使用者だけがその世界で、唯一、普段の速度での移動が出来る能力。


 光弾を避け、数秒もせずに、白華シロハの目の前に、橙華トウカは現れた。


 血だらけで、ボロボロで、もう一歩でも動けば崩れてしまいそう。そうなりながらも翳した拳は力強く、握りしめられていた。


「は?」


「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 白華シロハ は驚愕しながらも、橙華トウカの肉体には【魔力】が宿っていないことを瞬時に理解すると、その一撃を防ごうと足掻く。


 絞り出した【魔力】で、壁を作り出し、負けなどは自分にはないと、その全てをその一瞬に注いだ。


 自分の想いも、命も、人生も、全てを投げ打ってでも、白華シロハ橙華トウカに勝とうとする。


 だが、橙華トウカは既に決めていた。


 姉を止めて、自分も死ぬ。


 それが彼女の覚悟であり、己をとするという判断へと至らせた。


極時制制御アルティマ・タイム・ルーラー因果応報ビヨンド・ザ・タイム!!!!」


 それは隕石を消し飛ばした、どんな事象、現象、防御、状況でも、敵対者を仕留める奇蹟。


 それを再現するために、自らの腕を銃身、己を引き金として、その弾丸を白華シロハ の心臓目掛けて、解き放つ。


 弾丸は【魔力】を帯びない肉体に、反応は示さない。だが、それは橙華トウカの一部が組み込まれた弾丸であり、最後に一瞬だけ握りしめた際に宿した【魔力】が着火して、火をつける。


 拳は蒼く輝き、橙華トウカの【魔力】が膨張すると白華シロハが作り出した、なけなしの【魔力】の壁などは、巨大隕石と比べれば、造作もなく最も簡単に砕く。


 そして、白華シロハ の心臓を、橙華トウカの蒼炎の拳が撃ち抜いた。


 奇蹟は再び成され、姉妹喧嘩の決着が着いた瞬間、白華シロハ は自分を殺した橙華トウカの顔に目を向ける。


 そこには血塗れで、直ぐにでも壊れてしまいそうな妹の姿があり、そして、何よりも、自分に憎しみなどでは無く、慈悲と哀愁の涙を浮かべる素顔を目の当たりにした。


(こんなになっても、貴方は、私に憎悪を向けないのね。本当に嫌になるな。貴方みたいな妹を愛せなかった自分が、本当に、嫌いだ。大嫌いだ)


 それでも、自分は妹を、橙華トウカのことを認められない。


 真っ直ぐと光り輝く道を歩き、正道を貫く妹と、自分を嫌がおうでも比べてしまう。


 それを知るには、白華シロハは互いに殺し合う意外に見つけられず、今、橙華トウカに殺されたことで、その事をようやく理解できた。


 口から血が流れ出し、意識は既に朦朧としている。


 それでも、白華シロハは最後に、橙華トウカに向けて、伝えねばと一生懸命に口を開く。


「よくも、殺してくれたわね」


 その一言は、心の底から出た本音。

 橙華トウカに向けた、最大の賛辞であり、恨み節。


「そう、だね。姉ちゃん」


 それを聞いて、橙華トウカは悲しげな表情を浮かべると、彼女もまた、限界を迎え、その場に倒れ込んでしまう。


 浅神アサガミ家にて起きた、双子の姉妹喧嘩、それは多くの禍根へと決着を着け、幕を閉じるのであった。

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