ヴィーナスとジーザス
猫柳蝉丸
本編
「目覚めなさい、目覚めなさい、勇者アキラよ……」
「こ……ここは? 俺は……一体……?」
「目覚めましたね、勇者アキラよ。落ち着いて聞きなさい、色々端折りますがあなたは現世では死んでしまいました」
「えっ、マジ? そこ端折る? いや、それよりそう言うお姉さんは誰なんだ?」
「わたくしは女神フレイア。勇者アキラよ、まあ色々あってあなたにお願いをしに参りました。女神も色々大変なのですよ。分かってください、勇者アキラよ」
「異能力を授けるからどこかの異世界を救ってほしいとか?」
「理解が早いですね、勇者アキラよ」
「まあ今どきの現代っ子なんで。で、俺は何したらいいの? スライムに転生したらいいの? 外れスキルで無双でもしたらいいの?」
「外れスキルなんてとんでもない。勇者アキラよ、そんなことをしてもわたくしたちには何の得もないでしょう?」
「言われてみればそうなんだけどね……。そう言えばその異世界を救ったらご褒美とかあるの? 生き返してくれたり?」
「勇者アキラがそれを望むのならできますが、よろしいのですか? 勇者アキラの肉体は約三十年前に火葬されておりますが」
「もっと早く声かけてほしかったな……。その辺の時間を巻き戻したりとかできないの?」
「時間を巻き戻すくらいのご褒美となると、四十ほどの世界を救っていただかないといけなくなりますよ、勇者アキラよ」
「世知辛いなー……」
「神の世界も慈善活動で世界を救っているわけではないのです、勇者アキラよ。それでどうされますか? 一つの世界を救えばそれなりのご褒美をお与えできますが……」
「まあいいよ、どうせやる事ないし、もう死んでる身だし。勇者になれるチャンスがあるならやってみるよ、男の夢だもんな」
「本当に理解が早くて助かります、勇者アキラよ」
「……で、俺にはどんなスキルが貰えるの? 外れスキルじゃないんでしょ?」
「ええ、強力なスキルです。それこそこの宇宙においてもかなりの力を持ち、宇宙のあらゆるものに影響を与えている力のスキル。あなたはその力を駆使してある世界の魔王を打ち倒すのです」
「おお……、何か期待できそうだな。あっ分かった、もしかして重力を操る力とか?」
「いいえ、重力よりも遥かに強い力です、勇者アキラよ」
「マジで?」
「重力よりも遥かに強い力……、その名は磁力! 勇者アキラよ、あなたはこれから磁力勇者マグネアキラとして世界を救うのです!」
「チェンジで」
「何故ですか磁力勇者マグネアキラよ!」
「いや、磁力って……、要は磁石だろ? マグネって響きも力抜けるし……」
「磁石を馬鹿にしないでください、磁力勇者マグネアキラよ! この磁石を見てください! こんなに小さくても星の重力より力を持っているのですよ!」
「磁力勇者マグネアキラを定着させようとしないでくれ」
「磁力! それは重力を遥かに超え! 磁力! それは電子機器をも狂わせる強力なパワー! 磁力! それは磁界を司る!」
「フレイアさん、あんた本当はひょっとして磁力の神様だろ」
「さあ磁力勇者マグネアキラよ! その磁力を自在に扱える力で魔王を打ち倒すのです! その磁力の力があれば矢でも鉄砲でもミサイルでも跳ね返せますよ!」
「まあ、やれって言うならやるけどさあ……。それで俺はどんな世界のどの魔王を倒せばいいんだよ」
「あなたの世界の電子機器会社です、磁力勇者マグネアキラよ。あなたの世界の科学技術は発展し過ぎてしまいました。その所業、まさしく魔王。きゃつらが神の世界の技術にまで辿り着く前に、今こそ愚かな人類を原始生活に引き戻すのです!」
「この……邪神が!」
おしまい
ヴィーナスとジーザス 猫柳蝉丸 @necosemimaru
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