第11話 探訪

私はまだ、喫茶店に居座っていた。否応なく、店内の空気がそうさせていた。そんな雰囲気に戦々恐々としつつ、私は自分のことがどうしようもなく情けなくなってきたのである。今日に至るまで、私はあまりにも、惨めで愚かだった。懺悔しても、少しも納得出来なかった。

目の前に出された、湯気を生み出し続けるパスタさえ、食べる気にはならなかった。己の存在意義を問うて、答えの出ない自分をただ恨むばかりであった。

マスターはいまだにコーヒーを沸かしながら、カウンターに立っている。わたしは徐にマスターの方に向かい、そしてこうつぶやいた。

「私はどうしたら良いんですか」

マスターは数分ほど熟慮した後で、こう言ってきたのである。

「できることを沢山見つけなさい」

出来ること?出来ること……

金属加工、作曲、文学……

もっとあるだろうに、今の私にはそれしか出せなかったのである。疲弊し切っていた故、致し方ないが。ともかく、今日は帰宅し、明日から本格的に自分のやれる事を探してみることにしよう。

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