魔法少女、理不尽に解雇されたので魔女になって好き放題やっていたら、いつの間にか影の反逆者として注目の的になっていた。

ケチュ

序章

プロローグ

「つまりね。あなたにはもう怪人退治をしなくていいってことだよ。……何度も言わせないで欲しいな、ははは」


「っで! でも!」


「はいはい、熱意は伝わってくるけどね。今の時代、君みたいなサポート寄りの魔法少女は充実しているんだよ」


「だけど……!」


「それにネット見た? あんなことをしたと噂されれば、どう頑張ろうとあなたの魔法少女人生はもうおしまいだから」


「いえ、あの時私は……!」


 その日、言われたあの一言が忘れられない。


「とにかく君の代用はいくらでもいる。さよなら」


 月宮なずな。高校一年生。

 秘匿組織、魔法少女連盟から魔法少女としてスカウトされて今日までの三年間。身を粉にして取り組んできた。


 水面下からひょっこり顔を出す亀のように突然現れる怪人を退治するのがなずなたちの仕事だった。


 怪人の出現は予測不可能で魔法少女の負担は計り知れない。たとえ授業中であろうとテスト期間中であろうとも関係なく怪人は現れる。お風呂のリラックスした時、睡眠時であっても怪人は気を使ってはくれない。


 怪人が現れれば、魔法少女たちに指示を仰ぐ中枢的存在——通称、魔法少女連盟から地域ごとに配置された魔法少女たちのチームリーダーに緊急で連絡が入る。そこからはリーダーの指示で魔法少女たちは直ちに怪人を退治するのだ。


 そんな彼女たちの活動は実は“個人個人の善意”で行われているものとして一般的に見なされている。と言うのも、魔法少女連盟の存在は一般人には秘匿されているのだ。


 なぜそんな周りくどい構造をしているのかと言えば、社会的コンプライアンス回避のため——つまり建前上雇っていないようにするためである。


 未成年の子供たちを危険な戦闘に就かせて、給料を払っているなどと報道されれば倫理的にも国際的にも批判されるだろう。そのため『魔法少女はあくまで自主的に善意で戦っている』という建前を貫く必要があるのだ。


 だから正式な仕事ではない。

 魔法少女連盟の意向一つで魔法少女たちの在り方は簡単に変わってしまう。


 例えば——魔法少女を辞めろ、などと言われれば即座に彼女たちはどこにでもいる子供に変わり果ててしまう。どれだけの徳を積んでもどれだけの成果を上げたとしても意味がない。世界を救った英雄でも次の日にはただの女の子なんてことは珍しくないのだ。


 そして、月宮なずなも同じくそういう理不尽な目に遭った一人だった。


 月宮なずなは自分の住む地域の魔法少女としてスカウトを受け、五人組のチームに配属された。もともと普通じゃないことに興味をそそられる女の子だったために魔法少女になれると知っただけで彼女のモチベーションは天をも貫くほど上がっていた。


 だから、授業中であれテスト期間であれ夜勤であっても欠かすことなく怪人の討伐に当たっていた。チームメンバーから体よく利用されていると分かっていても“平和のため”そう思ってひたむきに取り組んできた。


 しかし、先日起きた怪人の暴動事件で被害が拡大した原因がなずなの変身した魔法少女にあると世間で言われていた。なずな自身はまるっきり身に覚えのない出来事であるのだが、無情にも連盟はあっさりと解雇したのだった。


 ——まさか、どこにでもいるような子供がのちに厄介な反逆者になろうとは思ってもいなかったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る