飲み会でギャルとヤリチンが隣で始めたから必死で寝たふりするJDの話

かめのこたろう

飲み会でギャルとヤリチンが隣で始めたから必死で寝たふりするJDの話


 金曜日の夜。

 ギャル子の部屋は、いつもながら情報量が多かった。


 壁には海外のイケメン俳優のポスターが隙間なく貼られ、クッションやブランケットは鮮やかなピンクや挑発的なレオパード柄といった派手な色柄で統一されている。

 足元には、ついさっきまで読んでいたらしいファッション雑誌が何冊か散らばり、ローテーブルの上にはコスメのサンプルやスナック菓子の袋、それに定番で有名ないくつかのチューハイやビールの缶。

 もうすでに空いてるやつもそうじゃないのも。

 中にはもっと宴もたけなわになってからやろうと思って私が持ち込んだワインボトルさえ。


 やけに沈み込むソファにごろりと体を預けてちびちびやる私。

 目の前ではギャル子が床にラフに座ってスマホをいじりながら、画面の中の何かにけらけらと笑っている。


 「いやー、やっぱ家飲みが一番っしょ。外だとさ、いちいち色んな奴に気ぃ遣うじゃん? パリピうぜーし」。


 ギャル子がスマホから顔を上げて、特徴的なパステル系のカラーリングで装飾された缶チューハイの缶を掲げながらそう言った。

 私は曖昧な笑みを浮かべながら、同じようにして一口飲む。


 しゅわり。

 ほどよい甘さと柑橘系の酸味が口の中に広がり、逆らい難い快感を生み出していく。


 これが私たちの定番だった。

 週末の夜、どちらかの家に行って、時間や周囲を気にせずダラダラと飲む。

 特にギャル子の部屋はなんだか落ち着かせないようでいて、結局はリラックスできるという独特の空気感が心地よくて,ついつい長居してしまうのだ。

 このままずっと、他愛もない話をして笑い合っていられたら、それで十分だったし、それがいいと思っていた。


 これが同じ大学に通うって以外に傍目には全く接点も共通点もなさそうな私たち二人の過ごし方。

 典型的なギャル系女子の彼女と全くそんな素養は欠片もない自分が何故か付き合うようになった理由。


 それぞれお互い、メインで属するコミュニティを持ってはいたけど。

 もりろん彼女はギャルとギャル男系サークルを中心としたやつで。

 私はどっちかというと綺麗目でおしゃれな、就職先も付き合う相手も高め狙いの女子っぽいかたまりの方で。


 水と油みたいに、ほとんどお互い違うレイヤーにいるみたいに碌に付き合いなんてないはずだったんだけど。


 大学生活を送る上で持たざるを得ない、いくつかの公的で必然的な接点をきっかけに、話をするようになってお茶にいくようになった。

 気が付けば、その他の雑多な人間関係とは別に二人だけの付き合いはどんどん増えていくばかり。


 よくありそうな、だけど自分たちにとってはとても大切で貴重な女子トモの形。

 今日もまた、これまで過ごしてきたいくつかの夜と同じように、ひたすらしゃべって笑って飲んで食べて。

 そして最後にはいつの間にか沈み込むように寝ちゃうと。


 そんな楽しい時間が始まったという浮ついた気持ちだけだったんだけど。


 ピコン、ピコン。

 ピコン、ピコン。


 突然、満ち足りて何の欠損もない完全な空間を裂いて乱す電子音。

 テーブルの上に投げ出されるように置かれていたギャル子のスマホ。

 デフォルト設定のままのそれが妙に不穏に聞こえてドキッとする。


 「あ、ちょっと待って」。


 彼女はそう言ってスマホを手に取ると画面に集中しだす。

 一瞬、眉間に少しシワが寄り、かと思えばすぐにニヤリと口角が上がる。

 誰からの連絡だろう、と私はうっすらと感じる不安を誤魔化すように缶チューハイの味を確認する。

 それさえあれば何があってもやり過ごせるような、確かな信頼感で。


 数秒の後、ギャル子はスマホをテーブルに置き、私に向き直った。

 その顔には、何か面白いことを思いついたような、少し悪戯っぽい光が宿っている。


 「ねえ、アタシとよく一緒にいる二人組のギャル男知ってるよね?」。


 嫌な予感が背筋を這い上がった。


 「いま、アイツらから連絡来たんだけど」。


 と、彼女の知り合いである二人の男の名前を言う。

 私は思わず持っていた缶を置いた。

 ギャル子の交友関係は広く、その日によって付き合う相手もタイプも全く違うけれど、その中でも彼を含む数人は、私の中で密かに「ヤリチンリスト」にカテゴライズされていた。

 なんとなくの雰囲気というか、ギャル子から聞くエピソードの内容から、そういうタイプなんだろうな、と察していたからだ。

 そしてギャル子自身も、彼らのそういうところを面白がって付き合っているらしいのは明らかだった。


 「なんかさ、近くまで飲みに来てて、この後どっか行こうかって話してたらしいんだけど、アタシも一緒にって」。


 ああ、これぜったいよくないやつだ。

 もう間違いなくああいうこと言い出すやつだ。


 私は半ば諦観に包まれつつ、完璧な予知をする。


 「でさ、『もし誰かともう始めてんなら、そのまま合流ってどうよ?』だってさ」。


 寸分たがわず一秒前に想定した通りの言葉に、私の背筋にうっすらと、しかし確かに冷たいものが走った。

 ギャル子の部屋に、彼らが合流?

 この、二人きりの、静かで気楽な空間に? よりによって、私が勝手に「ヤリチンリスト」に入れているようなタイプの彼らが?


 もちろん前向きな反応はできようがない。

 それでいてはっきり拒絶する勇気もない。


 その結果現出する、酷く胡乱で不確かな、だけど間違いなく後ろ向きで乗り気じゃない私の言葉と態度。

 でもギャル子はそんな私を見て、ますます面白そうに目を細めた。


 「わっかんないよw。どうする? 来てもいいって言う? てか、もう『いいよ〜』って送っちゃったけど」。


 最後の言葉は、半分私の反応を楽しむように、投げやりに付け加えられたものだ。

 ああ、やっぱりな。

 ギャル子はこういう時、いつも決断が早く、そして基本的にノリがいい。

 私もここで「やだ、無理」と頑なに拒否するほど子供ではないし、そもそもギャル子の部屋に誰を呼ぶかは彼女の自由だ。

 それに、ほんの少しだけ、全く好奇心がないわけでもなかった。

 彼らが来たら、このまったりとして気楽な空気は一変するだろう。

 それは少し面倒かもしれないけれど、この閉じた空間に新しい風が入る、それはある意味で刺激的、と捉えることもできる。


 結局流されるように、消極的な不同意めいた同意の言葉を発することしかできなかった。

 待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべるギャル子。


 「なんでも好きなモノ買ってくるって言うから、遠慮しないで言えばいいよ!」。


 そう言って、ギャル子は再びスマホに視線を戻した。

 私はソファから体を起こし、なんとなく部屋の中を見回す。

 片付いているようで片付いていない、いつものギャル子の部屋。

 当然のことながら、急にこの空間が居心地悪くなってきた。

 自分の服装はこれで大丈夫だろうか。メイクは崩れていないだろうか。

 お客さんの立場なのに、なぜか自分が値踏みされるような気がして、身だしなみが気になる。


 十分ほどして、ギャル子のスマホに届いたらしいメッセージ。

 ほぼ同時に、ピンポーン、と玄関のインターホンが鳴り響いた。

 心臓がドクンと大きく跳ねる。ギャル子が楽しそうに立ち上がり、ぴょんぴょんと軽い足取りで玄関へ向かう。


 ガチャリ、とドアが開く音。そして、明るい男性の声と、ギャル子の「おー早かったじゃん」という弾んだ声が聞こえてきた。


 そして廊下からリビングに入ってきたのは、つい先ほど写真でも確認した、ギャル子曰く「面白い奴ら」だった。

 二人とも、いかにも今時のチャラ男といった雰囲気で、トレンドを押さえた髪型と服装で全身が隙なくセットされている。


 まあ決して不細工じゃないし、小綺麗にはしている。

 見た目だけなら及第点って感じ。

 軽薄さだけは隠しようがないけど、それも含めて凡百なその他大勢とは違うのは間違いない。


 部屋に入るなり、ギャル子の部屋の派手な内装を見回し、「うわ、お前ん家相変わらずだな」「でもまあ、なんか落ち着くわ」とか、適当な賛辞を口にした。

 その人当たりの良い笑顔の奥に、目が、なんていうか、獲物を値踏みするような、あるいは下心を含んだような光を宿しているように見えたのは、私の気のせいだろうか。

 それとも、私の勝手な先入観が見せている幻覚だろうか。


 ギャル子も私も、さっきまで二人でダラダラしていた時とは違う、どこか緊張を含んだ、それぞれのやり方でうっすらとフィルタを纏って彼らを出迎える。

 これは女子の本能のようなものなんだとは思う。

 例えどれだけ気心知れていたとしても、あるいは逆に迎えざる相手だったしても、無意識に心の備えをして円滑にその場をやり切ろうとしてしまう。

 生き物としてそうせざるをえないみたいな。


 冷蔵庫からビールとチューハイを取り出し、「好きなの飲んで〜」と声をかけるギャル子。

 彼らが持ってきたというコンビニ袋からは、見るからにジャンクなスナック菓子や、度数の高そうなお酒のボトルが出てくる。


 部屋の空気が、一瞬にして塗り替えられた。

 私たちの間のゆったりとした、気楽で守られた時間は終わりを告げ、これから始まる夜は、彼らの持ち込んだ新しい空気、そして彼らのペースで進んでいくのだろう。

 私はチューハイの缶を弄びながら、これから起こるであろう未知の展開をぼんやりと予感していた。


 リビングの中央、ギャル子と私がお喋りしていたソファとローテーブルの周りに、二人が加わる形で仕切り直しの飲み会が始まった。

 最初は、やっぱりなんとなく気まずかった。

 彼らはギャル子とは顔見知りだけど、私は完全に初対面だ。

 何を話せばいいのか分からないし、彼らの、既に出来上がっているテンションについていける自信もない。

 それに、彼らが纏う「いかにも遊んでます」オーラに、内心やっぱり警戒していた。

 少なくとも大学内で噂になる程度には遊んでいるらしい雰囲気、言葉の端々や、私に向けられる慣れた視線に、どこか引っかかるものを感じる気がする。

 彼らは私をどんな目で見てるんだろう、と無意識に探ってしまう。


 でもそんな警戒感を高い純度で維持できていたのも、一時間にも満たない間だけだった。


 最初こそ居心地悪く、チューハイをちびちびやりながら付き合っていた私。

 でも時間と共にペースも量も徐々に上がっていく。

 彼らのコミュ力が圧倒的なのは事実だった。

 話も仕草も凄まじいくらいに上手だった。

 ぎこちなかった会話も、それが必然のようにみるみる馴染んでなごんでいってしまう。


 自分の面白いエピソードを面白おかしく披露したり、こちらの話に相槌を打ちながら上手に話を掘り下げたりする。

 思っていたほど露骨にグイグイ来る感じではなく、適度な距離感で話を進めていく。

 気が付いたらこちらからも話を向けているほど。


 ふと、自分が想像していたよりもずっと、この状況を楽しんでいることに気づいた。

 最初は少し怖いとさえ思っていた彼らのことも、今は「結構愉快なヤツかも」などとすら思い始めていた。


 そうしてお酒と会話が進むにつれて、体全体がぽかぽかと熱くなってきた。

 ギャル子の部屋の暖房と、ワインやビール、チューハイが混ざり合った心地よい酔いが、全身の緊張を弛緩させていく。

 まぶたが重くなってきた。

 彼らとギャル子が、ゲラゲラ笑いながら手慰みに始めた素朴なパズルを崩して罰ゲームを決めている声が、遠くに聞こえるような気がする。

 もう、意識が浮遊しているみたいだ。


 ふわあ、と大きなあくびが出た。

 もう、どうでもいいや。

 最初に彼らに抱いていた警戒していた気持ちも、ちゃんとしなきゃという意識も、全部アルコールと一緒に溶けて、頭からどこかへ流れて行ってしまったみたいだ。

 ソファのクッションにもたれかかり、ぬくぬくと暖かい部屋の空気を感じる。

 すぐ近くで聞こえるはずの彼らの話す声が、なんだか遠くて、子守唄のように心地よく響いてくる。

 意識が、ゆっくりと、まどろみの底へと沈んでいくのを感じていた…。

 もう抗う気力もなかった。


 そしてすべては闇の中へ。

 とても甘美で強烈な誘惑だった。


 ……。


 ふとうっすら目を覚ますと、全身を包む温かい部屋の空気と、少し離れたところから聞こえる、抑えられた話し声が耳に入ってきた。

 体のどこかにじんわりとした、掴みどころのない奇妙な感覚を覚えて、意識がゆっくりと浮上してくる。

 頭はまだひどくぼんやりしていて、現実と夢の境目にいるような、ふわふわと頼りない状態だった。


 まぶたは鉛のように重く、薄目で霞んだ世界を認識しようとする。

 部屋のメインの照明は落とされ、間接照明か、あるいは外からの光か、定かではないとろけるような薄闇の中。

 すぐ横、隣からギャル子ともう一人、たぶんチャラ男のどちらかだろう声が聞こえる。

 その声はさっきまで盛り上がっていた時の明るく弾んだ笑い声とは全く違う、密やかに抑えられた、どこか切迫した響きを持っていた。


 なんだろう、この感じ。

 体の奥底が、なんとなく落ち着かない。

 苦しいわけでも、痛いわけでもない。

 ただ、内側から湧き上がるような、胡乱で不確かな、でも私の注意を惹きつける、妙な違和感。


 そして認識の質が上がっていくにつれて、隣から聞こえてくる声に普段と全く違う、異常な気配が混じっていることに気づいた。

 不規則的に何かが、衣服か、あるいは肌か、摺れて擦れるような音。

 なによりとぎれとぎれに発せられるギャル子の声。

 いつもの強気で明るいあのトーンではなく、少し苦しげに、あるいは必死な、懇願するような響き。


 聞いたこともない、儚く弱弱しく、それでいて何かを耐えるような細く可憐な声。


 「……っ、や、だめ…その子には…ダメだから……」。


 囁くような、しかし強い意志を感じさせるものだった。

 ギャル子が、すぐ近くで、誰かに何かを強く訴えかけているようだった。


 「そ、そういう子じゃないから……、ぜ、絶対だめ……」。


 何を「ダメ」だと言っているのか、誰に言っているのか。

 未だ薄膜に覆われたような意識のままうまく思考が追いつかないけれど、その声のトーン、聞こえてくる不規則な音、そして肌で感じるような張り詰めた気配から、ただ事 ではないことが、五感を通してダイレクトに伝わってきた。

 私のすぐ隣で普段の彼女からは想像もできないような何かをしていて、そして同時に私を守ろうとしている……そんなことが、醒めきっていない胡乱な頭の中に漠然と、しかし恐ろしいほどのリアリティをもって伝わってきた。


 そして何より、今自分を襲う微妙な感覚。

 とてもプライベートで禁忌的な場所を触られて弄られているはっきりとした信号。


 ようやく自分が眠りながら体を触られていることを理解した。

 でもそれからすぐに反応できなかったのは、相変わらず覚醒しきれない泥のような心身の鈍さと、状況が齎す呪縛めいた感覚。


 「はぁ……っ、はぁ……っ、あ、アタシがするから……お願い……」。


 ギャル子が私を必死でどうにか守ろうとしているということ。

 ならば私はその努力を無下にしないようにするのが最善なのではないかという錯綜した使命感。


 このまま寝たふりするのがいいのじゃないかと。


 道理で言えば絶対に間違っていたのだろうとは思う。

 それは疑いようがない。

 普段の日常の常識的で冷静な理性と社会性も持った状態なら他に解釈しようがない。


 でもその時には一つの解決方法として何ら矛盾することなく自分の中で納得されるだけの説得力があった。

 このまま私が寝たふりをして、ギャル子たちが終わるのを待てばいい。

 そうすれば、この危機的な状況をさほどことを荒立てずに、何もなかったように終わることができるかもしれない。


 できうるならばそれが一番いいのではないかと。

 アルコールが齎す混濁と異常で倒錯的な状況は私にほとんど矛盾も違和感も抱かせずにそう選択させてしまったみたいだった。


 「はっ……! ん……っ! あ……、や……!」。 


 明らかに反応を始めているギャル子の声を聴きながら私はひたすら寝たふりをした。

 止むことをひたすら願って、時折「その子は駄目」「アタシが……」と繰り返す彼女の言葉に必死ですがるような心持で。


 でも一向にこちらを弄る動きが止みそうな気配はなかった。

 けっして 強くも乱暴でもなく、ひたすらあやすように微妙な場所を触られて、否応なく反応しそうになる。

 ぴくっとなりそうになって、寝返りをするように顔を横に背けて片腕で隠すように顔を覆う。


 ……っ!


 ゆっくりと脚を広げられていきそうになる。

 瞬時に生まれる葛藤、純粋な拒絶と抵抗、寝たフリを維持するべきかという想い。

 本能的に以後の結末を左右する決定的な瞬間だと理解する。


 今。

 今だ。


 この時しかないっ。


 私は……。


 寝たふりを選んでしまった。

 恐らくここが最後の分岐点だったのに。

 でも後からどれだけ後悔してももう遅かった。


 ああ。


 何もかもを誰かの前にさらけ出すとても無防備な感覚。

 秘匿して隠すべき私の性をなにより象徴する場所に感じる、空気の流れ。

 やがて間も無くじわじわと再会される接触。

 より近くまで。

 どこまでもいやらしく、的確に。


 ヤリチン野郎そのままのやり方で。


 カレとは全然違う。

 インカレサークルで出会った将来性確実な、今時点で最高の相手だと確信してるあの人と。


 決定的で絶対的なそのやり方の違い。

 存在そのものの根本的な差異を感じさせる絶望的な間絶。


 女が持つある特定の身体現象を最も効率的に引き出して溺れさせる圧倒的な技術と精神性。

 ゆらり、男向けブランド香水の淡い匂いに脳内の靄の濃度が増していく。


 こんなのムリ。

 もうダメ。


 そうこの理不尽と不条理を割り切ろうとさせるほどの。

 もうこの時この場所だけだと、受け入れてしまってもさほどの問題でもないような価値観の転換。


 ほとんど諦めつつあった。

 だって自分でもわかり切ってるほど、そういう反応が出てしまっていたから。

 どれだけ我慢して抑えようとしても容赦なく淡々と巻き起こされる理不尽な現象。

 汲みだされる直截で我儘な欲求。

 暴力的なまでに自分を飲み込んでいく逆らい難い感覚。


 完全に赤裸々に出してしまっているのは確実の。


 含み笑いみたいなものさえ聞こえたような気がする。

 でも私はどうしても寝たふりをやめられなかった。


 もう遅いって想いと。

 ここまで来たんだから今更バレるのが凄く気恥ずかしくて気まずいって気持ちで。


 はっきりと覚醒して、ぴくんぴくんと反応しながら必死で片腕で顔を隠して寝たふりをつづけた。

 もはや明らかに分かってる感じで強く激しくこちらを追い詰める男の動き。


 その頃にはもうギャル子は本格的に始まった自分の状況に夢中でほとんどこちらを気に掛ける余裕はなくなっていた。

 声を出さぬようにしている息切れと振動の激しさだけで如実に彼女がどうなっているのかは十分に伝わってきた。


 自分が今受けている感覚と彼女の様子がどんどんリンクして混濁して一つの指向性を持っていった。

 私ははあはあと抑えられなくなった息遣いを上げながら、それでも寝たふりの恰好を維持して疾走する浮遊感のままその出口へと向かっていった。



 ~~~~~~~~~っ!



 やがて訪れた終焉。

 切なく甘美な爆発の後の静寂と薄桃色の感覚。


 すでに何の配慮もなくぱんぱんぱんと音を立て始めたギャル子たちの横で私は茫然と事後の余韻に包まれていた。

 そしてそれまで何とか姿かたちだけは保っていた私を完全に破綻させる決定的な一撃が与えられたのはその時だった。



 「なあ……。もう起きてんだろ?」。



 勝利を確信したような、不遜で軽薄な響きだった。

 でも私はもうそれを否定して拒絶する気にはならなかった。


 いや、むしろ積極的に受け入れにいこうとしていた。





 了

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