ドラム!ドラム!ドラム!ドラム!
北 流亡
Track 01.ドラム!ドラム!ドラム!ドラム!
第1話 バンドメンバー募集!
『バンドメンバー募集!
SNOW JAMバンドコンテストに出るメンバーを募集します
当方ギター ギター以外の全パート募集
オリジナル志向
初心者○ 時間を守れない人× ヤンキー×
経済学部2年 小川 玄
連絡先 gengen-chibi-kawa0402@geemail~……
学内掲示板にメンバー募集の貼紙を掲示してから1週間が経った。
応募は4件来ていた。
今から、その4人との顔合わせだ。
俺は、北海道札幌市で開催される、若手バンド向けコンテスト「SNOW JAMバンドコンテスト」で金賞を獲るという目標がある。
在学中に頂点になって、プロミュージシャンの足がかりにするのだ。
俺のもとに届いた4通のメールは、どれも情熱的なものだった。
「大学生活のすべてを音楽に注ぎます!」や「毎日3時間以上練習している成果を見せたい」など、こいつとなら良いバンドが組めると、確信できるような内容だった。
しかし、俺の足取りは重たい。せっかくの初顔合わせなのに、こんな暗い気持ちになるとは。
学食はがらんとしていた。
ここ「銀嶺学園大学」の学生食堂が、土日祝日に自由開放されていることは、意外と知られていない。
奥の方から談笑している声がした。4人の男たちがいた。他に人影は見当たらない。あの4人が、応募してきた人間だろう。
全員が一同に揃っている。まいったぞ。15分刻みで1人ずつ面談する予定だったのだが。
スマホは14時45分を指していた。こちらが1人目に指定した時刻は15時ちょうどだ。全員ずいぶん早く来てるじゃないか。
4人は仲良さげに話している。もう完全に打ち解けている。俺は更に気が重くなる。
「あ! あれ小川くんじゃね? おーい!」
1人が、こちらに気がついて手を振ってきた。アロハにハーフパンツにハットで金髪という、いかにも陽キャ全開って感じのチャラ男だ。
俺は穏やかな笑顔を顔面に貼り付けて手を振り返す。うまく笑えてる自信は、無い。
「えーと、お待たせしてすいません」
俺は頭を下げる。遅れたわけじゃないが一応下げておく。なんか俺が遅刻したみたいな雰囲気になっている。
テーブルの向かいに、4人が横並びに座っていた。向かって左から、革ジャンを着たゴリマッチョ、さっき手を振ってきた金髪のチャラ男、邦楽ロック系のバンドにいそうな低血圧っぽい感じの背の高い男、細くて小さくてメガネかけてチェックのシャツを着たオタクっぽい男の4人だ。
「はじめまして、経済学部2年の
拍手が起こる。いやなんの拍手だ。
「じゃあまず自己紹介しましょうか……えーと、好きな音楽ジャンルとかアーティストとか教えて下さい。そちらから順に」
俺は革ジャンのゴリマッチョを指す。
「
『ボジオ』と呼んでくれ。
好きなジャンルはヘヴィメタルで、特にプログレッシブメタルとかメロディックデスとかスラッシュメタルが好きで、尊敬するミュージシャンは、テリー・ボジオとマイク・ポートノイだ」
言い終わるとゴリマッチョ――『ボジオ』って呼べば良いのか?——はニカッと笑った。
ボジオは全身が筋肉でパンパンだ。牛くらいなら軽く絞め殺せそうな腕をしている。いかにもヘビメタって感じだ。てか医学部かよ。医師というよりはプロレスラーって感じの見た目だ。
「俺は
『サイモン』って呼んでね!
ジャズとかファンクとかが大好きで、あえて好きなミュージシャンを絞れって言われたら上原ひろみとかインコグニートかな? フェイヴァリットプレイヤーはサイモン・フィリップス!」
チャラ男――『サイモン』はやかましい身振りを交えながら言った。何もかもチャラい。確かにファンクって感じがする。てか同じ学部かい。いつも後ろの方の席で騒いでいる奴らの仲間か。
「……数学部2年、
『ピエール』って呼んで欲しい……
KING GNUとか凛として時雨とかバンプをよく聞く……プレイは9mmParabellumBulletの、かみじょうちひろを参考にしてる……よろしく……」
低血圧男――『ピエール』は今にも死にそうな感じで言った。いや、大丈夫か!? 邦楽ロック系の激しいドラムなんか叩いたら死ぬんじゃないか!?
「
『スリム』って呼んでくれたら嬉しいです!
ロックンロールとロカビリーが大好きで、ストレイキャッツのスリム・ジム・ファントムが大好きです! ロックンロール!」
オタク君――『スリム』は天高く腕を突き上げた。なんだそのポーズは。
見た目こそオタクって感じだが、喋り方は体育会系だ。よく言えばハキハキ、悪く言えばうるさい。
それにしても見た目によらないジャンルを聴くな。ロックンロールというよりは、ボカロとかアニソン好きそうな感じなのだが。
「ええと、これで自己紹介は終わりましたが……」
「タメ語でいーよ、小川くん」
西門――サイモンに会釈で返す。
「てか、みんなニックネームとかあるんだ」
「ああ、4人で話して決めたんだ。せっかくだしな」
岩本、もといボジオは真っ白い歯を覗かせる。
聞くと14時には俺以外の全員が集まっていたらしい。俺が来るまでの45分で随分仲良くなったじゃないか。
「さて……」
ここからが本題だ。椅子に座り直して全員を見る。メールである程度やり取りはしたが、ここでもう一度確かめなくてはいけないことがある。気が重い。
「……みんな
「ドラムだ」
「ドラム!」
「ドラム……」
「ドラムです!」
「…………」
俺が1人ずつ面談しようとした理由がわかるだろうか。
そう、応募してきた4人全員がドラムだからだ。
つまり、このうち3人はお断りしなきゃならない。1つのバンドにドラムは4人もいらないからだ。
俺は考える。誰なら、俺の理想に一番近いドラムを叩けるのか。
ヘビーメタルのボジオ。
ジャズ・ファンクのサイモン。
邦楽ロック系のピエール。
ロックンロールのスリム。
俺の理想とするのは、YOASOBIだったり米津玄師だったり、ああいう色々な音楽のエッセンスを取り入れながら大衆の心を掴む、トップオブポップスだ。この志に合うのは誰なのだろうか。考えはまとまらない。
とりあえず今日はこの辺で切り上げて、後日メールで返事することにしよう。そうすれば後腐れも無いし
「よし、じゃあ早速練習の日程を決めよう! 明日はどうだ?」
「へ?」
ボジオが、全員を見回しながら言う。
「オッケ~、明日なら空いてるよ~」
「……20時までに終わるなら」
「自分も夜までに終わるなら大丈夫です!」
「リーダーはどうだ?」
ボジオが笑顔をこちらに向ける。リーダーとは俺のことだろうか。俺のことらしい。目力が強すぎて目を逸らしそうになる。
「あ……空いてるけど……」
「よし決まりだ! 13時に南門前集合だ!」
「ちょちょちょ! ちょい待ってって!」
全員の視線がこちらに集まる。
「……みんな来るの?」
4人とも、きょとんとした顔をしていた。「当然だろ?」と言わんばかりだ。
ボジオが右手を差し出す。続いて他の3人も出す。
「よろしくな、リーダー」
「よろしくちゃーん」
「……よろしく」
「よろしくです!」
え? 本当にみんなバンドに入るの? ドラム4人だよ? サッカーに例えたらキーパー4人だよ? そもそもスタジオどうすんの? ドラム4人が一斉に練習できるスタジオなんて知らないよ?
全員が笑みを浮かべてこちらを見ていた。なんか断れる雰囲気ではなかった。
俺は握手に応えながら曖昧に笑みを返した。
ギター、ドラム、ドラム、ドラム、ドラム。
いや、ドラムばっか4人もいてどうすんだ!
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