第3話  約束の向こう側へ

「ふざけないでください!」


 せつなの叫びは、張り詰めた静寂を切り裂き、談話室の空気を激しく震わせた。その声には、抑えきれないほどの怒りと悲しみが込められていた。


「……そうだと、認めて欲しいのか?」


「……」


 静寂を切り裂くような明の声が重くのしかかり、せつなは言葉を失った。

 せつなは押し黙ったまま、顔を上げることができない。床に落ちた自分の影が、まるで今の心を表しているようだった。


「ならばそうだ!」


 明の言葉は、有無を言わせぬ力強さでせつなの胸に突き刺さる。


「どうしてそんな事が言えるんですか! どうしてそんな考えが出来るですか!」


 堰(せき)を切ったように、せつなの感情が爆発した。怒り、悲しみ、そして理解できないという混乱が入り混じり、声は震えている。

 怒りで声が震えるせつなの両肩を、椿が慌てて掴んだ。


「落ち着けよ! せつな!」


 必死になだめる椿の声も、今のせつなには届かない。


「そういうアンタは、なんでそんなに冷静でいられるのよ!」


 せつなの矛先は、冷静な椿にも向けられた。どうしてそんなに落ち着いていられるのか、信じられない。


「アタシは……」

(言えない……)


 確かに『ヴァルキリー』のパイロットになれば、この力があれば、たくさんの人を助け、守ることができる。あの日の誓いを果たすためには、そうするしかないと頭では理解している。でも、そんな打算的な考えが頭を巡っていたなんて、今この瞬間の、感情の渦にいるせつなに、どうしても打ち明けられなかった。

 二人の間で張り詰めた空気が流れる中、低い声が響いた。


「軍人だからだ!」


 それは、せつなの問いに対する答えでありながら、同時に、有無を言わせぬ強い威圧感をまとっていた。


「私は、この戦争を……我々の勝利で終わらせるためには、何でもする! 例え、お前たちに恨まれようともな! それが、私の軍人としての責務だ! それ以上、言うことはない!」


 明はさらに言葉を重ねた。


「それに本来、これは私の立場が関わるべき事ではない。しかし、博士たちの死を見届けた者として、なにより博士たちの無念を晴らすために、参加を要請したまでだ!」


 明が話し終えると、椿はそっとせつなの腕を引き、二人並んで再び椅子に腰を下ろした。


「出撃前にも言ったけど、強制じゃない。だから、断る権利はあるのよ」


 左側に立つ理恵が、優しい声でそう語りかけた。二人の不安を和らげたいのだろう。しかし、その言葉は逆に、これから重大な選択を迫られるのだというプレッシャーを、二人に与えているようにも聞こえた。


「なんにしても、まだ答えを出す必要はない! 来週の金曜日……この正門前で待っている。来たら応じると判断し、来ない場合は応じないと判断する……それで、良いな?」


 明の言葉は、有無を言わせぬ決定事項のように響いた。


「今日はもう帰って良いわよ! それから、ゆっくり考えなさい!」


 二人にそう告げると、促すようにして二人は車に乗せられ、学校の寮へと送られた。

 揺れる車窓から外を眺める。いつの間にか日は完全に沈み、街の明かりが、暗く淀んだ自分たちの顔をぼんやりと照らしていた。

 寮に着き、車から降りた二人は、重い足取りで二階へと向かい、「一〇三号」と書かれたドアにパスワードを入力して開けた。面積にしてわずか二十三・一八平方メートルの狭い部屋が、今、せつなと椿二人の家だ。


「……」


 二人しかいないのだから、部屋が暗いのは当たり前だ。でも今日は、いつも以上にその暗さと狭さが、二人の胸に鉛のようにのしかかり、部屋の中に入るのをためらわせた。


「ふぅー……」


 椿は軽く深呼吸をした後、せつなの手を取り、一緒に玄関に入った。それは、無意識の行動だったのかもしれない。彼女もまた、一人で暗い部屋に入ることに、ほんの少しの恐怖を感じたのだろうか。

 左手にあるスイッチを押すと、廊下を含めた部屋全体が明るくなり、せつなの暗い表情をはっきりと照らし出した。


「とりあえず、荷物置いて飯にしようぜ! 明日も早いし、昨日お前が作った肉じゃがでも食べるか?」


 椿はいつもの明るい調子で言った。せつなの心を少しでも軽くしたかった。


「うん……」


 せつなは小さく頷いた。

 二人で使っている寝室に重い荷物を置き、簡単な夕食を済ませ、交代で風呂に入った。


「次、良いわよ!」


 先に風呂から上がったせつなが声をかける。


「おう!」


 その後も、せつなの暗い表情は変わることはなく、そのまま寝室の左側のベッドに入り、静かに目を閉じた。

 こんなにも暗い表情を見たのは、小学生の一、二年生の頃以来だろうか。その頃からせつなは、どこか周りの子供たちとは違う雰囲気を持っていた。時々、一人で物思いにふける癖があり、周囲からは気味悪がられ、仲間外れにされたり、いじめられたりすることもあった。そんなせつなを守るために、椿は強くなることを決めた。女の子らしい可愛い服を避け、邪魔にならないように髪を短く切った。


(今度も……アタシがせつなの支えになる必要があるんだ!)


 眠っているせつなの隣で、椿はそっと心の中で呟いた。


(ならせめて、せつなの前ではいつもの明るいアタシでいよう!)


 そう決意すると、椿も静かに目を閉じ、深い眠りについた。


「ここは……どこなの……」


 せつなはただ歩いていた。先も見えないような漆黒の空間。どちらが上か下なのかも、前に進んでいるのかも、道でさえ分からない。振り返っても足跡ひとつ残っていない。この空間が無限に続いているんじゃないかと思うほどに……どこまでも、どこまでも、ただひたすらに続いていく。


「おまえの……」


「!?」


 突然、声が聞こえた。思わず周囲を見渡すけど、誰もいない。なのに、その声はあらゆる方向から聞こえてくる。さらに、その声と共に、ゆっくりと暖色の光が迫ってくるのが分かった。炎だ。

 やがて炎はせつなを包み込むように燃え上がり、まるで彼女を焼き殺そうとしているかのように。


「おまえの……せいだ!」


 その声は、さっきよりもずっとはっきり聞こえ、徐々にせつなに近づいてきているのを感じた。しかも、その声は聞き覚えがあった。脳裏に、あの光景が再び浮かび上がる。声が近くなるほどに、その光景は鮮明になっていく。恐怖で全身が震え出し、私は目を閉じ、耳を塞ぎ、その場にうずくまった。

 それでも、今度は頭の中に直接その声が聞こえてくる。まるで「おまえに逃げ場などない」とでも言っているかのように。


「おまえのせいだ!」


 せつなの肩に何かが置かれた。それが手だと分かった瞬間、驚きのあまり振り返ると、そこに立っていたのはあの男だった。燃える爆撃機のコックピットで焼かれ、溶けかけていたはずのあの男が……。

 男はせつなを押し倒し、熱さで溶けかけた手で両腕を押さえつける。やがて、彼女を押さえつけていた腕が腐り落ちると、涙を流しながらせつなを睨みつけた。


「おまえのせいで……」


「……っ」


「おまえのせいで!腕がなくなったじゃないか!!」


 溜まっていたものを吐き出すような叫びと共に、炎の中から次々と焼けた屍たちが立ち上がり、せつなの方へとゆっくりと歩いてくる。


「おまえのせいだ……おまえのせいだ……」


 その言葉を口ずさみながら、四方八方から彼らがやってくる。これはまさに悪夢そのものだ。


「嫌、違う……私じゃあ……」


 それでも、彼らは歩みを止めない。


「私はただ……」


 聞く耳など持たない。ただ彼らにあるのは、純粋にせつなに対する「殺意」だけなのだろう。

 そして彼らは、その溶けた手をせつなに伸ばし、掴みかかってくる。


「やめて……お願い!」


 彼らの手がせつなの顔を覆った時、彼女は小さく呟いた。


「椿……助けて」と。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」


 荒い息遣いと共に、せつなは目を覚ました。左隣には、まだすやすやと眠る椿の姿がある。ああ、あれは悪夢だったんだ――そう改めて認識し、ホッと胸を撫で下ろした。


「良かった……」


 心底ホッとして、せつなは思わず声に出してしまった。

 それからしばらくして、時計が午前6時ちょうどを指すと、けたたましい起床ラッパが鳴り響き、椿もゆっくりと目を開けた。


「ふぁ~……なんだ、起きてたのか?」


 眠たそうに目を擦りながら、椿がせつなを見た。


「え、ええ! 少し眠れなくて……」


「……ま、いっか。ほら、早く布団畳んで、僚広場(りょうひろば)に行こうぜ!」


「そうね……」


 一瞬、椿は心配そうにせつなを見たけれど、あれはなんだかんだとスルーされた。そんな疑問を抱きながらも、二人で布団を畳み、体操服に着替える。そして、椿と一緒に僚広場へと走り出した。


「おはよう!」


「「おはよう!」」


 広場へ向かう途中、たくさんの同級生や先輩たちと挨拶を交わす。みんなの目的地は、二人と同じ広場だ。


「お! もう大分集まってるな!」


 椿がそう言うと、広場にはすでに多くの生徒たちが集まっていた。その数はざっと八十人くらいだろうか。何しろ、この士官学校の一学年が住まう寮の南側の生徒全員が集まっているのだから。

 二人は自分たちのクラスを見つけて並んだ直後、女性の教官が壇上に上がった。機体の訓練でも指導をしてくれた、あの教官だ。


「集まったな! ではAクラスから点呼! 始め!」


「1!」


「2!」


「3!」


 教官の掛け声と共に、AクラスからDクラスまで順次点呼が行われる。自分の番が来るまでおしゃべりする生徒もいれば、中には「せっかくの土曜なのに訓練かよ」と、ぶつぶつ文句を漏らす生徒もいた。

 彼ら彼女ら士官学校の生徒にとって、休みは基本的に祝日だけで、あとは月月火水木金金、という古臭いと思えるようなスケジュールだ。だが、将来的に軍人になるのだから仕方がない。ちなみに、金と月――一般的に言えば土日は、授業ではなく訓練が主に行われる曜日でもある。


「Dクラス20名! 欠員なし!」


「一学年総員80名! 欠員なし!」


 最後の生徒が教官に報告すると同時に、教官はストップウォッチを押した。


「ちょうど良い時間ではある! しかし、あと5分短縮できるよう努めるようにせよ! では、ランニングを開始する! ついて来い!」


「「「はいっ!」」」


 檀上から降りた教官を先頭に、AクラスからDクラスの順に走り出す。広さ7140平方メートルもある寮の南側をぐるっと3周するのが、ここの毎日の日課だ。

 皆が走ることに集中している中で、せつなはまだ昨日のこと、そして昨夜の悪夢が脳裏にチラついていた。それに引きずられるように、走る速度が少しずつ落ちているのを感じる。


「せつな!」


「えっ! つ、椿! どうしたの?」


 椿が、今朝起きた時と同じ、どこか心配そうな表情でせつなを見つめる。


「どうしたも何も、お前、スピード落ちてるだろ? 列を乱すと教官に怒鳴られるぞ! だから……」


 そう言うと、椿はせつなに向かって手を伸ばした。


「……」


「早く繋げよ! 調子が戻るまで手を繋いでリードしてやるから!」


 少し考えた後、せつなは椿の手を握った。


 ランニングが終わると、五分間の休憩が入る。


(結局……最後まで椿にリードされてたな)


 そんなことを思いながら、タオルで流れる汗を拭うせつなへ、椿はスポーツドリンクを差し入れた。そして、隣に座る。


「ありがとう!」


「大丈夫か?」


「えっ?」


 椿の問いに、せつなはスポーツドリンクを飲むのをやめ、椿に視線を向けた。何かを悟られた気がしたからだ。


「どうして……?」


「さっき少しスピード落ちてたろ? それにほら、昨日の夜、お前うなされてただろ? それで……大丈夫かって?」


(やっぱり分かるのね……)


「大丈夫よ! あんまり心配しなくていいから。でも、ありがとう!」


 嘘をついた。

 今度は、彼女が椿を心配させまいとしてついた嘘だ。

 それは裏を返せば、単なる強がりなのかもしれない。でも、やっぱり椿に心配はかけたくない。いや、むしろ心配されるのが嫌なのかもしれないと、複雑で嫌な感情が彼女の中でぐるぐると巡っていた。


「はー、やっと終わった……」


 椿が大きく背伸びをする隣で、せつなは乱れた息を整えながら、額から滴る汗を拭っていた。いつもならサッと食堂へ向かうところだが、今日はどこかみんなと行くのを避けているように見えた。


「ほら!さっさと行こうぜ!」


 元気な椿の声に、せつなはハッと顔を上げた。


「えっ!ごめん!」


「謝るのはいいから行こうぜ!」


 有無を言わさぬ椿の勢いに引っ張られるようにして、せつなは食堂へと向かった。日課であるランニングを終えた後の朝食は、学校の食堂で摂るのが常だ。今日のメニューは、米七に麦三の割合のご飯を主食に、だし巻き卵と人工ソーセージ、ほうれん草のお浸しと質素だが、走ったあとで消費したエネルギーを補給するには十分だ。


「食べた者から屋外訓練場に集合!急げよ!


 教官の野太い声が食堂に響き渡る。プロテインバーを頬張りながら檄を飛ばす教官の姿に、他の生徒たちは怯えたようにご飯を掻き込むスピードを上げる。そんな中、せつなだけはゆっくりと箸を進めていた。


「せっ――」


 椿の声が聞こえた気がしたが、なんだか遠い。


「…………」


 聞こえていないことを察したのだろう、椿はさらに大きく、そして強い声でわたしを呼んだ。


「おい!せつな!」


「えっ!」


「さっきからお前、ぼーっと食べてるけど、食欲ないのか?」


「うん……少しね」


 心配そうな椿の視線を感じながら、せつなは申し訳なさそうに答えた。


「なら、そのだし巻き卵と人工ソーセージくれないか?」


 途端に、椿の目がキラリと光る。


「全くもう、食い意地張っちゃって!好きにしていいわよ!」


 せつなは呆れたように笑いながら、おかずを椿に差し出した。椿の顔がパッと明るくなり、だし巻き卵と人工ソーセージのほとんどを平らげていく。その美味しそうに食べる姿を見ていると、せつなの心はどこか温かくなった。残りをゆっくりと食べ終え、せつなは軽く息をついた。

 朝食を終え、二人は生徒は屋外の訓練場へと集合する。そこには、いつもの女性教官と、同じくらいの歳に見える若い男性教官が待っていた。


「良く集まった!これより諸君らは銃を担いで!この障害物コースを一周してもらう!では、始め!」


 男性教官の号令の下、一斉に生徒たちが走り出す。

 まずは、泥にまみれながら匍匐前進で狭い通路を抜ける。その先には、鉄条網が張り巡らされた急な坂がそびえ立ち、再び匍匐でその坂を越えなければならない。そこを乗り越えたとしても、目の前には高さ1メートルの壁越えや、渡河を想定した川越えが待ち受けている。この時点ですでに疲労困憊の生徒も少なくなく、その過酷な光景にはいつも唖然とさせられる。


「ハァ…ハァ…ハァ」


 強い日差しが降り注ぐ中での訓練は、さらに疲労と精神的な疲れを誘発するらしい。何を隠そうわたしも、昨日の今日でこんなことをしているのだから、何も感じないわけにはいかない。そんなことを感じながら息を整え、首元から流れ出る汗を手で拭った。


「お先!」


 いつの間にか、椿がせつなのすぐ後ろに追いついていた。疲れを見せることなく坂を駆け下り、先へと進んでいく。


「よし!」


 せつなも気合を入れ直し、椿に追いつくために坂を駆け下りた。

 やがて障害物コースを一周し、生徒たちは男性教官の前に整列する。彼女たちを含め、みんな汗と泥にまみれ、息も荒くなっていた。


「一先ず一周ご苦労!しかし、あと5分!あと5分短縮し、ここに集合するまで訓練やり直す!何度でもだ!さぁ!再度一周行け!」


 休憩する間もなく、わたしたちはまたあの障害物コースを一周することになった。教官の言葉に偽りはなく、「あと5分短縮する」という目標を達成するまで、訓練は繰り返された。

 そして、男性教官がストップウォッチを押し、その結果に満足したのか、小さく微笑んだ。


「良くやった!今後もこのタイムを目標に頑張ってくれたまえ!ちょうど昼だし!これで解散!」


 そう言いながら教官は壇上から降り去って行ったが、まともに立っていられる生徒は誰一人いなかった。


「やっと終わったか……ハァ……ハァ……ハァ……」


「そう……みたいね……ハァ……ハァ……ハァ……」


 他の生徒たちと同様に、せつなも椿も互いに息が上がっている状態だった。





 昼食を済ませた後、昨日と同じようにエレベーターで格納庫へ向かった。ギシギシと揺れる箱の中で、椿はせつなを心配そうに見つめた。


「どうした? さっきから浮かない顔して」


「……大丈夫よ」


 せつなは左腕を強く掴み、不安な気持ちを押し殺すように答えた。けれど、声はわずかに震えていたかもしれない。


「……なら大丈夫だな」


 口ではそう言うものの、椿の表情からは未だにせつなを心配しているのが見て取れる。


(私は弱くないんだから! せめて自分の心配しなさいよ!)


 この気持ちは、ただの強がりだ。多分、そのことは自分が一番よく理解していた。でも、そんな強がりが、まさか一瞬で崩れ去るなんて、この時のせつなは想像もしていなかった。


 それは、いつも通り機体の点検をするためにコックピットへと乗り込んだ時のことだった。

 機体に乗り込んで直ぐ、せつなは心を落ち着かせようと目を閉じ、深く息を吸い込んだ。そして再び目を開けた瞬間、メインモニターいっぱいにあの光景が広がった。


「……!」


 燃え盛る炎。恐怖のあまりせつなはまた目を閉じる。次に開けた時にはあの男が目の前に立っていた。


「違うの……」


 震える口元だけでなく、全身も震えていることに気が付く。

 必死に自分の行為を否定し、男に謝罪をする、許しを乞うように懇願した。分かっている。あれは到底許される行為じゃないことくらい。それでも、目の前の悪夢と苦しみから逃げたいがために、こんなことをしているのだと、どこか冷静な自分が理解していた。

 しかし、そんな事情など知らないとでも言うように、男はゆっくりと私に擦り寄ってくる。


「いや……来ないで……イヤァァァァァァァ――――――――!」


 悲鳴がコックピット内に響き渡り、タブレットで各機の状況を確認していた教官の耳にも届く。


「おい! どうした東郷! 心拍数が異常だぞ! 一体なにがあった東郷!」


 教官が無線で呼びかけるが、せつなはあの時と同じように小動物のように怯え、まるで自己防衛本能が発動したかのように、両手で耳を塞いだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 椿も思わず手を止め、せつなのいる右の方向を見つめる。


「……やっぱりか」


 椿はこの事態をむしろ予想していた。だが、それは椿の予想よりも遥かに早く訪れたのだ。分かっていたなら、もっと早くなんとかすべきだったのに、椿はただ見守ることしかできなかった。いや、むしろ見守ることが最善手だとも思っていたのだ。

 だが、その幻想は今や完全に打ち砕かれた。何もできなかった自分への悔しさと自責の念が、椿の次の行動を決めさせた。

 彼女は機体のコックピットを開け、飛び降りると、一目散にせつなの元へと駆け出した。


「せつな――!」


 今の椿には、せつなのこと以外何も考えられないようだった。ただ無我夢中で、格納庫内を必死に走る。

 だが、駆けつけた時にはすでに、教官によって私はコックピットから出されていた。

 上がった息を整えながら、椿は変わり果てた私を見る。全身は小刻みに震え、足もまるで生まれたての小鹿のようにかろうじて立っており、教官に支えられていなければ倒れてしまいそうな状態だった。


「チッ!」


 思わず舌打ちが出た。それは当然、自分自身に対する怒りの現れだ。朝から異変に気づいていたにも関わらず、彼女は悟られないようにただ声をかけることしかしていなかった。


(もっと、直接的に言ってやるべきだったのかよ!)


 そう考えていると、教官と椿の目が合い、声をかけられた。


「お! 小烏か。ちょうど良いところに来たな! 東郷を保健室に連れて行ってくれないか? 私は他の生徒も見なくてはならんからな」


「はい!」


「では頼む!」


 教官からせつなを預かった椿は、先ほど乗ってきたエレベーターで保健室のある一階へ向かうことにした。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 繰り返される「ごめんなさい」の言葉に、せつなの心が今ここにないのだと、椿は悟らずにはいられなかった。


 地上へ戻り、椿はせつなの手を引いて保健室へと急いだ。というより、ある種引っ張るようにして歩いている。

 周りは授業か訓練のため、人の気配がまったく感じられない。すれ違うのは、時折通り過ぎる教師くらい。まるでこの世界に二人だけになったみたいだ。


「……」


 ときどき振り返り、うつむいたままのせつなの顔を見るたびに、胸の奥でドロリとした怒りがこみ上げてくる。だが、ここで爆発させるわけにはいかない。せめて保健室にたどり着くまではと思いながら、椿はその感情を必死にねじ伏せた。


「幸奈先生お願いします……」


「はい! 訓練が終わったらまた来てね」


 保健室の女性の先生・水戸幸奈にせつなを預け、椿は踵を返した。

 一人きりになった学校の廊下。

 地下へ続く階段を目指して歩き始める。もう、怒りを抑える必要はない。誰にも見られていない。

 張り詰めていた心がプツンと切れて、怒りのままに近くの壁を殴りつけた。

 その一言に、今の自分が抱えている感情のすべてが詰まっている。廊下の窓から見える、どこまでも蒼い空を見上げて、椿はただ、自分の無力さを痛感していた。


 地下へと戻った椿は、引き続き訓練に参加することになった。


「これから3対3のチーム対抗試合を行う!これはメギド粒子散布下、つまり火器の使用が禁じられた状況での白兵戦を想定した訓練だ!使用する武器はトマホーク!頭部を破壊されたら、その時点で行動不能判定となる!」


 女性教官の解説が耳に入らないほど、椿の心はざわついていた。そして、教官の号令が響き渡る。


「それでは……始め!」


 教官の号令が下ると、あたしは左右の二人を差し置いて、機体を全速力で前に出す。まるで先ほどまで溜め込んでいた怒りをぶちまけるように、対戦相手の三機に襲いかかった。


「はぁぁぁぁぁ――――!」


 右手に握られた疑似トマホークを高く振り上げ、相手機の頭部を叩き斬る。宙を舞った頭部は、やがて力尽きたかのように地面に転がった。


「さあ、次はどいつだ?」


 あまりにも突発的な出来事に戸惑っているのか、それとも恐怖からか、残された相手の二機は椿の出方をうかがっている。味方の二機も加勢すべきか迷っているようだったが、今の椿にとっては、同じチームメンバーさえも目障りだった。


「来ないなら……こっちから行くぜ!」


 再び地面を蹴り上げ、疑似トマホークを両手で高く振り上げる。振り下ろされた一撃は、さすがに防がれてしまった。


「やるじゃんか……だがな!」


 一旦距離を取り、機体の右足で相手の腹を強く蹴りつける。相手は勢いよく押し出され、訓練場の壁に叩きつけられた。その衝撃で動けなくなった一瞬を見逃すはずもなく、椿はトマホークを下から思いっきり振り上げて、またもや頭部を吹き飛ばす。

 最後の一機となった相手は怯えながらも、死に物狂いで突撃を始めた。味方チームの二機は、それを追うように迫ってくる。


「邪魔すんな!」


 チームの二人に怒号を浴びせると同時に、最後の相手機の頭部をトマホークで吹き飛ばした。


『勝者! Aクラス第一チーム!』


 試合には勝った。しかし椿の容赦のない戦い方に恐怖心を抱いた、勝利を祝う歓声はなく、会場は静まり返っていた。


「おい、小烏!チームプレイってこと忘れてないか?」


「そうだぞ!なんだよ、お前だけ独断専行して!」


 メンバーの二人の言い分はもっともだ。だが、椿はそれを聞き流し、舌打ちをした後に答えた。


「なら、二人に任せる!」


 二人は椿の回答に苛立ちを覚えつつも、やがて溜息とともに呆れへと変わっていった。

 その後の試合も、ツバキは一人で暴れまわり、相手チームを次々と薙ぎ倒していった。訓練が終わる頃には、チームメイトはほとんど動くこともなくなり、チームとは名ばかりの彼女の一人勝ちで終わった。


「ハァ……ハァ……ハァ」


 その荒々しい息づかいは、まるで怒りという怒りを吐き出しきってなお、戦いを求める獰猛な獣のようでもあった。


 帰り際、椿は再び保健室へと足を向けた。せつなを迎えに行くためだ。心臓がドクドクと不穏なリズムを刻む。せつなの状態はある程度は予想できていた。けれど、それは決して現実になってほしくない事、胸騒ぎのする予感だ。


「失礼します……」


 椿はゆっくりと保健室のドアを開けた。ギィ、と古びた音を立てて開いたドアの先に広がっていたのは、保健の先生の険しい表情と、仮想PCに表示されたデータだった。その顔を見た瞬間、嫌な予感がさらに加速する。まるで、心臓を鷲掴みにされたような感覚だった。


「来たね……入って、説明するから」


 先生に促され、椿は恐る恐る保健室のドアを跨いだ。一歩踏み出すたびに、足が鉛のように重い。聞くのが、予想が的中するのが、ただただ怖かった。結果だけ耳を塞いでしまいたい衝動に駆られる。けれども、それは逃げだと自分に言い聞かせながら、先生の前の椅子に座った。


「診断結果だけど……その表情、分かっているね?」


 先生の問いに、椿は何も答えられない。喉がカラカラに乾き、息が詰まる。

 少しの沈黙の後、先生は重々しい口調で告げた。


「PTSDだよ」


「……そうですか」


 嫌な予感が、嫌な予想が見事に的中した瞬間だった。心臓がドクンと大きく跳ね、全身から血の気が引いていくのがわかる。


「まだ初期症状だけど、今後、あのアーマードギアに乗るのは危険かもしれないね」


 PTSD……心的外傷後ストレス障害。それは、かつて第一次世界大戦で、塹壕の砲弾に怯えた兵士たちが患った「シェルショック」と呼ばれる神経症に端を発する。そして、ベトナム戦争で心に深い傷を負った兵士たちの苦しみがきっかけとなり、一九八〇年に正式な病気として認められた心の病だ。せつなも、あの恐ろしい体験が、彼女の心に深い影を落としてしまったのだ。


「とりあえず、東郷ちゃんの所に行ってあげな」


 先生はそう言って病室のベッドルームの方を指差した。椿は足早にそこへ向かう。

 たくさんの医療ベッドが並ぶ中、先生は窓際のベッドを指差した。カーテンを開けると、そこには両腕で体を抱きしめ、小刻みに震えているせつなの姿があった。その顔は青ざめ、虚ろな瞳は焦点が定まらない。

 その痛々しい姿を見た瞬間、一度は収まったはずの怒りが再び込み上げてきた。それは、先ほどの怒りよりも数段強い、燃え盛るような怒りだと椿は実感する。一体誰が、せつなをこんな目に合わせたのか。


「教官たちには私から言っておくから、今日はもう帰って、そばにいてあげて」


「分かりました……」


 椿は一緒に帰るため、そっとせつなの左手に手を伸ばす。しかし、せつなは震えるばかりで、手を伸ばそうともしなかった。それでも椿は諦めず、彼女の右手を優しく握りしめる。そして、そのまま右手でせつなの肩を掴み、支えるようにして一緒にベッドから立たせた。まるで、壊れ物を扱うかのように、慎重に。

 保健室を出る直前、椿は先生に問いかけた。


「あの……せつなは、治りますか?」


 その声は、震えていた。希望を求めるような、それでいて絶望を恐れるような、複雑な響きがあった。


「そうだね……治る人もいるけれど、たいていの場合は治らない可能性の方が高い。たとえ治ったとしても、それは一時的なもので、また再発する可能性も十分にある」


 先生の言葉は、椿の心を深く抉った。治らない可能性の方が高い。その言葉が、鉛のように重くのしかかる。


「そうですか……」


 椿が力なく呟いた後、先生は言葉を付け加えた。


「だから極力、君はその娘のそばに居てあげなさい! それが多分、その娘のためだから」


「はい!」

 椿は強く返事をし、せつなの手を握りしめたまま、保健室を後にした。彼女の心には、せつなを守るという、固い決意が宿っていた。


 国連海軍横須賀支部。


 ほとんどの者が夢の中にいる頃、支部の一室だけがぼんやりとした光を放っていた。


「ふむ、彼らの酒もなかなか美味いな」


「はいっ! 西園寺雅琉少将閣下!」


 そう呼ばれた男――西園寺雅琉は、がっしりした体格の20代後半。丸い氷が涼やかに揺れるグラスに、敵性言語たる帝国語で書かれたボトルから、琥珀色の液体、おそらくはウィスキーをトクトクと注ぐ。それを若い士官に見せつけるように、デスクの椅子にふんぞり返りながら、ゆっくりとグラスを傾けた。


「戦争が始まって約二年、そして俺が彼らの内通者になってから半年か……早いもんだな、藤堂少尉?」


 西園寺はグラスを片手に立ち上がると、窓の外に広がる闇夜の海を眺めながら、デスクの前に立つ副官に語りかけた。


 「西園寺閣下のお誘いで私も参加させていただきましたが、戦時下にも関わらず、生活は想像以上に豊かでございます!」


 藤堂少尉は、心底感動したように答える。


「ふんっ! で、例の情報はどうなっている?」


 西園寺は一瞬鼻で笑い、すぐに表情を引き締めて藤堂に情報収集の進捗を促した。


「はい!例の新型アーマードギア、『ヴァルキリー』に関する情報ですが、いかんせん新しすぎて情報が不足しています。性能面や製造過程については、これからになるかと……」


 西園寺の顔に不満の色が浮かんだが、すぐに「仕方ないか」と納得したような表情になった。無理もない。新型のアーマードギア・ヴァルキリーの存在を、軍内部、特にこの支部の人間が知ったのはつい昨日のことなのだ。たった二機で帝国軍の超大型爆撃機を撃墜したという事実は、彼にとっても驚きだった。

 同時に、西園寺は疑問に思っていた。なぜ自分は今までアレの存在を知らなかったのか? 彼は少将、軍としてはかなり高い地位にいる。それにもかかわらず、そうした情報を一切知らされていなかったのだ。それだけ機密事項だったのだろうと推測はできる。しかし、西園寺自身は腑に落ちない。


「アレはかなり前から、そうだな……2年前には計画だけでもあったと思うんだが」


「申し訳ありません!それに関しても現在、調査を進めておりますので!」


 藤堂は深々と頭を下げて西園寺に詫び、西園寺もその謝罪を受け入れたかのようにデスクの椅子に座り直した。


「しかし、パイロット候補者に関する情報は掴めました!」


 その言葉に、西園寺は驚きと同時に安堵の表情を見せ、一旦ウイスキーを飲む手を止めた。


「詳しいデータを!」


「では始めに、昨日のパイロットに関しての資料です!」


 藤堂は言われた通り、仮想PCに二名のパイロット候補の情報を表示した。

「うむ……」


 西園寺は画面を凝視する。


「いかがいたしましょうか? たかがパイロットです。そんな情報を送っても……」


 藤堂が戸惑ったように尋ねる。


「どんな情報でも送れというのが、彼らの要望だ! 送れ!」


 西園寺は即座に命令した。


「はいっ!」


 藤堂はその場を一旦立ち去る。西園寺はグラスにウィスキーを注ぎ足すと、椅子に座ったままくるりと窓の方へ体を向けた。そして、一口でウィスキーを飲み干し、不敵な笑みを浮かべたのだった。


 日曜日の朝。訓練のない、貴重な休日。

 いつもなら、どこへ行こうか、何をしようかと、弾むような会話が飛び交う時間のはずだった。だが、重苦しい空気が部屋を支配していた。

 食卓には、昨日の残りものが並んでいる。椿とせつなは、互いに無言のまま箸を動かしていた。味なんて、まるで感じない。いや、そもそも味があるのかどうかもわからなかった。口の中に入れるのは、ただの「物体」でしかなかった。


「……ごちそうさま」


 誰からともなく、そう呟いたのはせつなだった。椿は何も言わず、ただこくりと頷いた。食後も言葉を交わすことはなく、二人はそれぞれの時間を過ごすために、寝室へと向かった。

 椿は、机に向かい課題に取り組み始めた。鉛筆を走らせる音が、静寂な部屋に響く。しかし、その耳は、ベッドから聞こえてくるかすかな衣擦れの音を拾っていた。

 せつなは、パジャマ姿のままベッドに横になり、じっと天井を見つめている。その瞳には、光が宿っていなかった。まるで、心ここにあらずといった様子で、彼女の意識は、遠いどこかへ飛んでいってしまっているようだった。


「せつな……」


 椿は、思わず声をかけそうになった。しかし、その言葉を飲み込んだ。かけたところで、彼女の状態が良くなるわけではない。それに、今のせつなに、どう言葉をかけたらいいのか、椿にはわからなかった。

 時間がただただ過ぎていく。鉛筆を動かす手も止まり、椿は机に突っ伏した。

 そのまま、一日が終わった。

 夜になり、二人はベッドに入った。

 せつなの寝息は、荒い。時折、何かに怯えるように、うなされる声が聞こえてくる。


「ごめんなさい……ごめんなさい……許して……許して……」

 その二つの言葉を何度も何度も繰り返す。まるで壊れた機械のように、同じ言葉を紡ぎ続けるせつなの声が、椿の耳から離れなかった。


「せつな……」


 椿は再び声をかけようとして、やめた。どうすれば、彼女を救えるのか。どうすれば、彼女をこの悪夢から解放してやれるのか。椿には何もわからなかった。ただ、そばにいてやるしかない。それだけが、今の自分にできることだと、椿は思った。

 そして、椿は、せつなの頭をそっと撫でた。


「お前には、アタシがついてる。だから……安心して、眠ってくれ」


 その言葉は、まるで魔法のように、せつなの心を解き放った。彼女の震えと呟きが、ぴたりと止まる。


「……ありがとう」


 たった一言。しかし、その言葉には、椿への感謝と、安堵の気持ちが込められていた。せつなは、そう言い残すと、そのまま深く眠りについた。

 椿もまた、せつなに言葉をかけられたことに安堵し、静かに目を閉じた。

 夜の闇の中、二人の寝息だけが、静かに響いていた。


 翌日の朝。

 いつもと変わらないトーストの朝食。ただ違うのは、食卓を囲む二人の間に、昨夜からずっと張り付いたままの、重苦しい沈黙だ。


「……もう、大丈夫なのか?」


「えぇ、大丈夫よ」


 この二言が、昨晩から今日までの、椿とせつなとの間で交わされた、すべての会話だった。いつもは小さく聞こえるテレビのニュースの音声が、今日はやけに耳にうるさく響く。それがこの居心地の悪い空間を、さらに強調しているようだ。

 登校中も同じだった。せつなは椿の少し前を、いつものように淡々と歩いていく。その背中には、まるで分厚いガラスの壁があるようで、椿の言葉は何も届かない。ただ通り過ぎる同級生や先輩に、それぞれが挨拶を交わすだけで、昨晩から何も進展していない。いや、むしろ後退しているのかもしれない。彼女はどうすればいいのか分からなかった。

(一体……何をしてやるのが正解なんだ)


 花森長官が提示した期限は、もうすぐそこまで迫っている。何とかしてせつなを立ち直らせたいという思いと、いっそ自分一人で戦おうかという、二つの相反する考えが、椿の心の中は複雑に絡み合っていた。

 そんなことばかり考えているせいか、今日の授業はまったく頭に入ってこない。ホワイトボードに書かれた文字も、先生の声もすべてが遠くで鳴っているようだ。


「……であるからして! 小烏!」


「っ! はいっ!」


 突然、担任の先生に呼ばれ、椿は慌てて立ち上がった。


「さっきからお前、授業聞いてるのか? 心ここにあらずといった様子だが?」


「い、いえ! 聞いてました! 問題ありません!」


「そうか? ではお前に免じて、この問題を解いてみろ。解けたら座ってよし!」


 先生に言われた通り、椿は問題に答えた。幸いにも歴史の授業だったのでは、記憶を頼りに流れを解説し答えた。


「……よし! よくやった! 座ってよし!」


 なんとか乗り切ったと安堵の溜息をつく。ホッと息をつきながら、椿はそっとせつなの方を盗み見る。

 せつなはいつも通り、真剣な顔で授業を受けていた。いや、正確には、先生を見つめながらも、その視線はどこかぼんやりと窓の外を眺めているようだった。でも、その姿は、椿の知らないせつなではなかったので、どこか少し安心する。

 やがて午前の授業が終わり、昼休みになった。教室は一気に賑やかになる。


「終わったー! さて、せつな、飯でも行こうぜ?」


 椿は疲れた体を大きく伸ばしながら、せつなに声をかけた。

 だが、せつなは「遠慮するわ」と、椿の誘いをあっさりと断った。


「今日はこれでいい」


 そう言って、彼女はカバンから手のひらより少し大きい包みを取り出した。それは、レーション、軍事用の携帯食料だ。ブロックタイプで、栄養バランスが完璧に計算されているらしい。でも、味気ないことこの上ない。


「それだけでいいのか? せっかくなら食堂でも行こうぜ!」


「誘いは有難いけこれで十分よ!」


 そう言って、せつなは包みを開け、一口大のブロックを口に運んだ。いつもなら、椿の誘いに乗って、しょうがないわね、と笑ってくれるのに。椿の言葉は、まるで彼女の心に届かないみたいだ。


「でも、さすがに!」


「心配はありがたいけど、余計なお世話よ!」


 せつなは、そう吐き捨てるように言って、再びレーションを口に運んだ。椿は、その冷たい態度に、どうすることもできず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


 「わかった」


 そう言い残し、一人で食堂へと向かった。その背後で、せつなが椿をどんな顔で見ているのか、怖くて振り向けなかった。一人で歩く廊下は、いつもよりずっと長く、そして寂しく感じられた。

 一人で食べる昼食は、いつもの何倍も味がしなかった。


(どうすれば……どうすれば、せつなを救えるんだろう)


 せつなの強がりな視線が、椿の頭から離れない。その瞳の奥に隠された本当の気持ちを、椿はまだ知らない。

 椿はただ無力なまま、時間だけが過ぎていくのを待つことしかできないのだろうか。


 昼食を終え、食堂から教室へと戻る途中、椿の耳に甲高い怒鳴り声が飛び込んできた。


「どうしてですか! ちゃんと説明してください!」


そ の声に、椿は反射的に廊下の曲がり角にある柱の陰に身を隠す。音のする方向へそっと目を向けると、そこには案の定、せつなと女性教官の姿があった。どうやら口論になっているらしい。


「搭乗してはならないのです?」


「昨日あれだけのことがあって、わからないのか?」


 教官の冷たい声に、せつなは真っ向から食ってかかった。


「はい! わかりません!」


 椿は知っている。せつなは全部わかっている。昨日の訓練で何があったのか、そして教官が何を言わんとしているのか、誰よりも理解しているはずだ。それでも、彼女は「わからない」という嘘をついて、自分を守ろうとしている。その痛々しいほどの強がりが、椿にはたまらなく辛かった。


「ならはっきり教えてやる! 今のおまえでは戦闘は無理だ! 理由は、保健担当の水戸幸奈の診断だ! お前はPTSDなんだぞ! もう少し自覚しろ。それに命令には従うものだ! 特に心身の健康を監督する者の命令はな!」


「だとしても!」


 教官は冷たく言い放つ。


「言いたいことがあるなら、まずは水戸から許可をもらうんだな! 話は以上だ!」


 教官は帽子のひさしをくい、と整えると、踵を返してその場を去っていった。

「待って下さい! 教官!」


 せつなは悔しそうに唇を噛み締め、じり、と椿の隠れている方へと睨むように視線を向けた。


「隠れてないで、出てきたらどうなの? 椿!」


 バレてたか。椿は苦笑いをしながら、頭をガシガシと掻き、柱の陰からひょっこりと顔を出した。どこか芝居じみた彼女の姿は、いつもの調子に戻ろうとしているようにも見えた。


「いつから聞いてたわけ?」


「いや、ついさっき通りかかっただけだ」


「嘘ね。どうせ最初から聞いてたでしょ」

 当然のように見抜かれ、椿は言葉に詰まる。しかしせつなは、そんなことはどうでもいい、という表情で話を続けた。

「ねえ、あんたはさ……私と教官の話、聞いてどう思った?」


 そのまっすぐな問いに、椿は思わず口を閉ざした。いや、閉ざしたかった、というのが本音だ。


「強がってる……そう思ったでしょ?」


「そんなことは……」


「いいわよ、誤魔化さなくて。……そう、私は強がった!」


 今のせつなは、椿と二人きりの時に見せる、素直な自分をさらけ出す時の顔だった。


「強がって……なんだよ別に、いいじゃねーか!」


「あんたは強いからそう言えるのよ。弱くて、強がることしかできない私と違って」


 自分を卑下するせつなの言葉に、椿の胸にふつふつと苛立ちが湧き上がってきた。それは以前まで感じていた無力感への怒りとは違った。


「弱いからなんだよ……。強がる必要なんてないくらい強くなればいいだけだろ!」


「なれるなら、とっくになってるわよ! でも、あの光景と声を聞いて、それに昨日のことで、思い知ったの!」


 せつなの瞳が、一瞬、恐怖に揺れたように見えた。


「それで……何が言いたいんだ? 同情でもしてほしいのか?」


 椿の言葉に怒りの感情が混じる。せつなは、その言葉に傷ついたように顔を歪めた。

「なんでそんなこと聞くわけ? そんなんじゃないわよ! ただ事実を言っただけ!」


 その答えに、椿は心底呆れて大きなため息をついた。


「そうかよ……。そろそろ訓練時間だ! 私は行く! じゃあな!」


 椿は舌打ちし、足早に生徒たちでごった返す廊下を歩いていく。さっきまでせつなを心配する気持ちと、どうしようもない焦りが心の中を占めていたのに、今はその全てが怒りに変わっていた。

  なぜあいつは自分を卑下するんだ? 弱いから何だっていうんだ? できないなら、できるようになればいい。それだけだろ。

 そんな単純な答えを、どうしてあいつは受け入れようとしないんだ。椿は握りしめた拳に力を込める。

 心配とか、同情とか、そんなんじゃない。ただ、あいつが自ら諦めていくのが、見ているのが、何よりも嫌だった。そして、そんなふうにしか考えられないあいつに、腹が立って仕方がなかった。


 怒りに身を任せ、他の生徒たちを掻き分けるように進む椿の姿を、せつなは呆然と見送った。

伸ばしかけた右手は、虚しく宙をさまよう。


「待って……」


 心の中でそう呟く声は、誰にも届かない。胸の奥に押し込めたはずの後悔が、じわりと滲み出してくる。

 どうして、あんな言い方しかできなかったんだろう。まるで鋭いナイフを突きつけるかのように、わざと突き放すような言葉を選んでしまった。


(私……ほんとうに、最低だ)


 椿が怒って当然だ。いや、もっと早く怒ってくれてもよかったくらいだ。

 自分がいかに愚かで弱かったか、今なら痛いほどわかる。本当は、椿に助けてほしかった。手を伸ばして、この苦しい状況から引き上げてほしがる自分を、認めたくなかっただけだ。


「はぁ……」


 深く、深い溜息が漏れる。肺の中の空気をすべて吐き出すように、せつなは廊下の壁に背中を預けそのまま座り込んだ。

 膝を抱え、顔を埋める。視界がぼやけて、目の前の光景が歪んで見えた。


「どうして……私は素直になれないんだろう……」


 ハッキリと「助けて」と言えるようになりたい。椿なら、例えせつなを助けられなくても、きっとその気持ちを受け止めてくれると知っている。ずっと昔から、そうだったのだから。

 せつなには、時々物思いにふける癖があった。それは今もそうだが、特に酷かったのは小学生の頃だ。一人でぼんやりと空を見上げたり、何かをじっと考え込んだり。それが理由で、周囲からは少し気味悪がられていた。特に男子からは、からかいの対象にされることも多かった だから今でも男子は少し苦手だ。

 いじめられている時は、必ず椿に助けを求め、心の中で「椿、助けて!」と叫びながら祈った。

 椿はそんな祈りに応えるように、いつもすぐに駆けつけてくれた。いじめっ子たちを追い払い。


「大丈夫だ、せつなにはアタシがいるから!」


 そう泣いているせつなを優しく慰めてくれた。

 今思えばその優しさに、せつなは甘えていたのかもしれない。

 いつまでも甘えているわけにはいかない。そうした焦りにも似た感情が、椿を突き放すような言動を生んでしまったのかもしれない。そう思うと、余計に辛くなり、せつなの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。


 やがて、せつなは静かに涙を拭った。手のひらに残る、熱くてしょっぱい感触。それが、ついさっきまで自分が泣いていたことを鮮やかに思い出させる。

 こんなことで泣いてしまうなんて、情けない。そう自分を責めながら、せつなは重い体をなんとか立ち上がらせ、保健室へと向かった。

 この時間、一般の生徒たちは全員、地下にある訓練施設にいる。おかげで、人気のない廊下には、自分の足音だけが虚しく響き渡る。ついさっき、あんなにひどいことがあったばかりだから、その孤独が、まるで鋭い刃物のように心臓を貫くような気がした。

 長い廊下を、ひたすら孤独に歩き続ける。


「……はぁ」


 誰に聞かせるわけでもなく、小さなため息が漏れた。

(なんで、あんなことを……)


 頭の中には、さっきの出来事がフラッシュバックする。


『なに一人で泣いてんだ、バカか?』


 椿の冷たい声。そして、自分を嘲笑うかのような周囲の視線。

 それは、まるで心に刻まれた傷のように、いつまでも痛みを訴え続けていた。

 保健室の前にたどり着き、せつなはゆっくりとドアを開ける。中はいつものように、薬品の匂いと、微かに漂うシーツの香りで満たされていた。


「おかえり。そこの机、課題用意してあるからやっちゃって」


 幸奈先生は、机に突っ伏したまま、気だるそうに指さした。その声には、いつもの気の抜けたような響きがあった。


「……はい」


 せつなは言われた通り、指定された机に向かう。

 椅子を引いたところで、ふと、幸奈先生が顔を上げた。


「東郷ちゃん……もしかして、何かあった?」


 その表情には、心配の色が滲んでいた。


「いえ、なんでも」


 せつなは、反射的に嘘をついてしまう。


「……そう。なら、いいんだけど」


 幸奈先生は、それ以上何も聞かず、再び机に顔を伏せた。

 その優しさを、また拒絶してしまった。

 なぜ、私はこうも一人で抱え込んでしまうのだろう。

 自分の不器用さに、胸が締め付けられるような思いがした。


「……っ」


 簡単な課題さえ、頭に入ってこない。文字が、ただの記号にしか見えず、問題集とにらめっこしているうちに、時間だけが虚しく過ぎていく。

 やがて、授業の終わりを告げるチャイムが、やかましく鳴り響いた。


「はい! それじゃ、課題データを提出して、気をつけて帰ってね!」


 幸奈先生の声に、保健室で自習していた他の生徒たちが一斉に動き出す。

 全員が仮想PCを操作し、課題データを送信すると、まるで示し合わせたかのように、次々と荷物を持ち、保健室を後にしていった。

 せつなも、自分の課題を終え、仮想PCを閉じ、すぐにでもこの場所から逃げ出したい。そう思っていた、その時。


「東郷ちゃん」


 幸奈先生が、彼女の名前を呼んだ。


「……はい」


「一人で抱え込まないでね」


 その一言が、せつなの胸に深く突き刺さる。


「……はい」


 せつなは、またしてもその優しさを遠ざけるように、それだけを答えて、保健室のドアを開けた。


「カバン、一緒に持ってくればよかった……」


 教室に置きっぱなしにしてきたカバンを取りに戻ろうと、廊下を歩き出す。

その時だった。


「「あっ」」


 曲がり角で、誰かと鉢合わせる。

 顔を上げると、そこにいたのは、さっき廊下で会ったばかりの椿だった。

 昼休みの出来事が、一気に脳裏に蘇り、せつなは、椿の顔を直視することができなかった。


「おい」


 冷たい声とともに、勢いよく投げられたそれは、よく見ると、自分のカバンだった。

「……ありがとう」


 せつなは、おずおずとそれを受け取った。

 椿は、何も答えず、ただ無言で、せつなの横を通り過ぎていった。

 去りゆく椿の背中。

 昼休みに見た時とは、また違う、どうしようもない虚しさが、せつなの心を満たしていく。


 その後、椿を追うようにして、せつなも寮に帰ったが、会話は生まれなかった。いや、むしろ生まれない方が当然だった。あんなことがあったのだから、お互い口を利きたいなんて、とても思えない。

 結局、それからというもの、二人の間に一言の会話もなかった。朝食はそれぞれ別々に食べ、登校も、学校の中でも、放課後でさえもお互いに一緒にいるのをどこか避けてしまう日々が続いた。

 せつなは早くこの状況をどうにかしたいと願っていた。その居心地の悪さもあるけれど、それ以上に、椿とこんな関係を続けるのがとてもつらかった。

 そんな思いを胸に秘めながらも、どうすることもできないまま、時間だけが虚しく過ぎていく。そしてついに、明日が、明たちが提示した日の前日となった。

 その日の夜も、私たちは一緒に寝ていた。日中は避けていても、寝るときだけはそばにいてくれる。それが椿の優しさなのかもしれないと、今ならわかる。

 それでも、せつなは明日のことが気になって、なかなか寝付けなかった。壁に寄りかかり、座り込んでしまう。もし椿が、明たちのところに行ったら、せつなは一人になる。あれだけ椿を突き放すような真似をしても、彼女の近くにいるという安心感だけで、どこか救われている自分がいたのは、認めたくはないけれど、どうしようもない事実だった。

だから、思い切って寝ている椿に話しかけた。


「ねぇ……あんたは明日行くの? 花森長官たちのところへ」


「……ああ、おまえは行かないのか?」


 そう言いながら、椿は布団から起き上がり、せつなと同じように壁に寄りかかって座った。椿のことだから、布団に入ったまま聞くのは悪いと思ったのかもしれない。


「私は……行かない。もうあんな思いはしたくないから」


「約束はどうなるんだよ! 『アタシたち二人で強くなろう!』って約束を破る気かよ!」


 椿は怒りの感情に身を任せるように立ち上がり、せつなを睨みつけるように見下ろした。


「約束も何も、昔の話でしょ?それに、私はあんたみたいに強くないし、あんたはあんな光景を見ても、さぞ平気でいられるんでしょ!」


 せつながネガティブな感情に身を任せて話していると、突然、椿は両手でせつなの胸ぐらを掴み、思いっきり引っ張り上げた。さっきより険しい表情で、せつなを見つめてくる。


「ここ数日から、なんなんだよお前は! 悲劇のヒロイン気取りかよ! ふざけんな!」


 椿の怒鳴り声に、せつなは少し驚いた。


「あの日……アタシだって見たさ! 聞いたさ! あの悲鳴を! あの地獄のような光景を!」


 険しい表情のまま、椿は語り始めた。


「自分の手が初めて血に塗れる感覚を知ったときの、底知れぬ怖さ。自分の命を守るために、誰かの命を奪ったという事実。その全部が怖かった! でも……」


 椿は視線を下に向け、さらに続けた。


「おまえの怯えている声を聞いてから、アタシは怖がるのをやめた。おまえのために! それから数日、アタシもそういう思いを押し殺して、せめておまえの前では強い自分でいようと、そばで寄り添える自分でいようと、我慢した! なのに、おまえはなんだ! おまえまで強がって、遠ざけて、一人で背負おうとする! アタシっていうやつがいるにもかかわらず!」


 再び顔を上げた椿の目からは、涙がこぼれ落ちていた。

 その涙の意味を、今のせつなには痛いほどわかる。それは、せつなに対する椿の深い想いであり、せつなのために強がり、我慢してきた彼女が、せつなの前だけで見せる弱さの証。

 最初からわかっていたのに、せつなは目を逸らしていた。今までずっとそうだった。せつながいじめられているせいで、椿は髪を切り、女の子らしさを捨てた。自分が弱いせいで、彼女はそこまでのことをしてみせた。

 そんな彼女の優しさが嬉しかった。けど同時に自分のせいだという思いもあった。それでも、椿は一度たりとも、せつなのせいになんてしたことはない。きっと、これからもそうだろう。

 お互いに不器用なんだと、せつなはこの時になって初めて自覚した。彼女もまた、せつなのために頑張ってくれていたのだと知った。


「ごめん。私もあんたみたいに強くなりたかった。私にとって、あんたは親友である以上に、憧れなの! だから、その涙を拭いてよ! 私のために!」


「言われなくても!」


そう言って、椿は袖で乱暴に涙を拭った。


「私も一緒に行くわ!」


「……!」


「もう一人でなんか背負わない! 背負うなら、二人で背負おう! 喜びも、怒りも、悲しみも、恐怖さえも! 私はあんたとなら、乗り越えられる気がするの!」


 これまでのせつなからは考えられないような言葉に、椿は微笑んだ。


「お前がそんなこと言うようになるなんてな」


 カーテンから差し込む月明かりが、二人を優しく照らす。

 「もう一つ、約束してほしいの!」


「約束?」


「うん。もし私が逃げても、追いかけないで、待っていてほしい。必ず戻ってくるって信じて!」


 それを聞いた椿は、ただ一言「わかった」とだけ告げた。


 互いの絆を確かめるように手を繋ぎ合ううちに、二人はそのまま眠りについた。



 寮を出た二人は、国連海軍横須賀支部へと向かう道を歩いていた。

 いつもの通学路と同じはずなのに、今日はすべてが違って見えた。横を通り過ぎる人々も、道の脇に咲く花も、空に浮かぶ雲も、何もかもがどこか遠い世界のものみたいに感じられる。まるで、彼女たち二人だけが、時間の流れから切り離された一本道をひたすら歩いているような気分だった。


「せつな……大丈夫か?」


 不意に、椿の声が隣から聞こえてきた。


「うん……大丈夫。あんたは?」


「……アタシも大丈夫だ! お前が居るからな!」


 椿はそう言って、せつなの手を握りしめた。その手は温かく、力強くて、私の不安を少しずつ溶かしていく。私たちは言葉を交わす代わりに、手と手で互いの決意を確かめ合った。この道がどこに続いているのか、その先にどんな困難が待ち受けているのかは分からない。それでも、この温かさが、私たちを強くしてくれると信じられた。

 遠くに、赤レンガ作りの建物が見えてきた。国連海軍横須賀支部。

 二人の視界に、ついにその正門が映り込む。そこには、白い軍服に身を包んだ明が、軍刀を地面に突き刺し、静かに立っていた。彼女の周りの空気だけが、張り詰めているように感じる。


「来たな」


「はい!」

 明の問いかけは、威圧的でも、問い詰めるようなものでもなかった。ただ、私たちを待っていた、という事実を淡々と告げているだけだ。

二人の声が重なり、青空に吸い込まれていく。

 正門という名の境界を越えた瞬間、景色は一変した。今まで見ていた世界とは、まったく違う場所に来てしまったかのような感覚。どこまでも続く灰色のコンクリート、規則正しく並んだ無機質な建物、そして、すれ違う人々の冷たくて鋭い視線。ここは、二人が今まで生きてきた場所とは違う、非日常の戦場なのだと肌で感じた。


「では、改めて。よく来てくれた」


 そして、その日を境に、二人の戦いの日々がここに始まったのだ。それは、せつなと椿の二人にとって新しい物語の始まりだった。

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