第5話 響剣
砂嵐が次第に静まり、霊廟の奥には淡い光が差し込んでいた。裕政は踊る剣を携え、再び神殿の入り口へと戻る。ナディアは驚きと敬意の眼差しで彼を見つめていた。
「……剣は、目覚めたのですね」
裕政は小さく頷き、静かに問い返した。
「ナディア。フェニキアと直接の繋がりがない土地に、“カフェクルベン”の名が刻まれていた。それは、偶然ではないはずだ。君は何か知っているか?」
ナディアは一瞬ためらった後、小さなメモ帳を取り出し、そこに記された地名を指さした。
「宇都宮……日本の古都です。ここにも、“踊る剣”に似た伝承があるのです。東国の武士たちが“
「祈りの舞……」
裕政の記憶に、カフェクルベンで見たヴェルグの影がよみがえる。剣を鍛えながら、彼は確かに言っていた。
> 「記憶は場所に宿る。そして、剣はそれを呼び覚ます鍵だ」
裕政は踊る剣を鞘に納め、決意を込めて言った。
「次は宇都宮だ。砂と氷の記憶が、東の大地でどう繋がっているのか……確かめたい」
ナディアは笑みを浮かべた。
「なら、私も同行します。古の舞と剣の謎、解き明かしてみたい」
こうして、二人はカルタゴを後にし、新たな記憶を求めて、かつて“蝦夷の響き”と呼ばれた宇都宮へと旅立った。
――その地には、忘れられた剣舞の一族と、再び目覚めようとする“もう一つの亡霊”が、静かに息を潜めていた。
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